天変地異を招く魔竜
規模は怪鳥本体の放つものと比較するととても小さく。
だけどその密度は劣ってない。
異形の放った光輪が衝突と同時に弾けた。
ソードクライメイトはもろにその光を浴びる。
俺は闇の盾を生み出して防いだけど、ソードクライメイトは深傷を負った。
胸から首にかけてその表皮と肉が灰と変わって崩れ落ちる。
怪鳥の頭部から伸びる異形の鳥は再びその翼に光を集めた。
続けざまに光輪を放つ。
俺は暗黒色に染め上げたクレイモアを構えながら跳んだ。
真黒の刃で放たれた光輪を斬り払う。
灰と散った闇の中からクレイモアの白銀の剣身が覗いた。
俺はそれを横目見ると、闇を新たに纏わせて刃を包む。
光の怪鳥は大きく悶え、ソードクライメイトの拘束を振りほどいた。
叩きつけられた岩が亀裂にそって崩れ落ちて。
怪鳥はその岩を蹴って再び空へと舞い戻る。
『────』
ソードクライメイトの苦しげな唸り。
だけどそれは瞬く間に怒気を孕んで大地を震わせるような咆哮へと変わる。
『──────っ!!』
岩を叩き潰し、長い尾をひゅんひゅんとしならせて。
翠色の角にバチバチと紫電が走った。
再びソードクライメイトも空へと飛翔しようとする。
「待て、今日はここまでだ」
俺の言葉にソードクライメイトは動きを止めて。
だけど再び翼を広げる。
「待て」
再び静止。
命令は効いている。
なのに、その命令が持続しない。
ソードクライメイトは翼から闇を吐き出し、光の怪鳥を追って空へと飛んだ。
振り落とされそうになったのを、なんとか甲殻の一部を掴んで耐える。
「ムニン、大丈夫か」
垂直に近い急な飛翔で、しがみついてるムニンも宙吊りになっていた。
軽い子供の体が風に煽られて激しく揺れている。
「んー……、ちょっとキツい!!」
風の音に負けないようにムニンが大声で叫んだ。
「わ!」
次いで手を滑らせ、ムニンが空に放り出される。
「ムニン!」
俺は瞬く間に過ぎ去ったムニンを肩越しに振り返った。
今もソードクライメイトは上昇を続けていて。
その姿がどんどん小さくなる。
俺は魔竜の背を蹴り、ムニンのもとへと降下した。
ムニンは仰向けで落下していると、空中で反転。
次いでその背から黒い翼を1枚生やした。
初めて会ったときに身に付けていたカラスの羽を編み込んだマントだ。
あれはどうやら大きな片翼だったらしい。
ムニンはバサバサと翼を羽ばたかせて。
だけど必死さのわりに落下速度はそれほど変わってない。
俺はムニンになんとか追い付くと、じたばたと暴れているムニンの手を掴んだ。
自分の方に引き寄せると、ブラックドラゴンを生み出して。
俺とムニンはブラックドラゴンに跨がる。
「……あれ? 空が」
ムニンが言った。
見上げた先には闇色の暗雲。
真っ黒な雲が渦を描き、空を闇で塗り潰していく。
周囲の大地にサーッと影が広がった。
大きな突風が吹き抜け、山脈のふもとの草木が枯れ落ちていく。
あれはソードクライメイトの権能────
「『気象』……!」
闇の干渉によって周囲の環境を作り変える能力。
本来は局所的に限定して使うつもりで与えた権能なのに、これはまるで加減がない。
大地に亀裂が走り、至るところから真っ赤なマグマが噴き出した。
空からは闇を圧縮した雫が雨となって降り注ぎ、周囲を闇で汚染していく。
俺は頭上に闇を反発させる層を作った。
その層を傘代わりにしてムニンを濃密な闇から守る。
今まで俺が生み出した魔物は俺に絶対服従だった。
あのフェンリルの片割れであるハティだって逆らえなかった。
だけどその命令権は常に絶対というわけじゃなかったらしい。
そしてその能力の規模と影響はフェンリルにだって比肩する。
「止めないとまずいよ」
ムニンが言った。
降りしきる闇の雨が強風でそよぐと、それがかからないかとムニンはビクビクしていて。
俺に強く体を押し付けて縮こまっている。
「もちろんだ」
俺はブラックドラゴンを駆り、光の怪鳥とそれを追うソードクライメイトに向かっていった。
闇が吹き荒れる先に光を捉えた。
それを追う影も。
光の怪鳥は光輪をソードクライメイトに放つが、ソードクライメイトは闇を噴き出した翼でその攻撃を打ち払っていた。
そしてソードクライメイトの咆哮に合わせて幾重にも紫電の槍が降り注ぎ、光の怪鳥を狙う。
光の怪鳥は身をよじり、急降下と急旋回、急上昇を素早く繰り返して放たれた雷の軌道から逃れた。
5枚の翼に強い光を纏わせて急加速。
『──────!!』
だけどその行く手を連なる紫色の閃光が遮った。
等間隔に並ぶ稲妻の壁が天と地を結んでそびえ立って。
さらに激しい闇の突風。
暗黒の嵐が光の怪鳥を捕らえて追い詰める。
ソードクライメイトは再び光の怪鳥に取り付いた。
その体を闇がドロドロと流れる大地に叩きつける。
光の怪鳥はソードクライメイトを睨み、けたたましい鳴き声と共に光を。
だけどこの闇の中に沈んだ時点で勝敗は決していた。
次の瞬間にはその身体が無数の切っ先に貫かれる。
ソードクライメイトのもう一つの権能『千剣』。
闇を圧縮して俺が操るクレイモアと同等の闇の刃を生み出す能力だ。
身体を貫かれた光の怪鳥は力なく倒れた。
その身体が闇に飲み込まれて沈んでいく。
能力を解放すればやはり圧倒的。
だけどその行使は今も続いている。
俺はブラックドラゴンの背にムニンを残したまま、闇の満ちる大地に降り立った。
水面の上を歩くように闇を歩いてソードクライメイトに迫る。
ソードクライメイトはゆっくりと首を傾けて俺を見た。
その鋭い縦長の瞳孔が俺を睨むと『千剣』が発動する。
俺を引き裂こうと実体化した無数の闇の刃。
だけど俺にその刃は届かない。
『────』
ソードクライメイトが唸りを上げた。
闇の刃は俺を中心とした球状に生成を無効化した。
あくまでソードクライメイトの能力は闇への干渉。
俺のような掌握とは違う。
俺は生成された残りの闇の剣も砕いた。
闇が破片となって四散する。
「俺が魔物の王だ』
闇の仮面を生み出しながらソードクライメイトに言う。
『俺に従え。『気象』を解除しろ。従わないなら────』
俺は周囲の闇を根こそぎ奪い、クレイモアに纏わせて。
『力ずくで教えてやる』
暗黒の切っ先をソードクライメイトに突きつける。




