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死者の行方

 ソードクライメイトは俺に従うつもりは、ないらしい。

閃光と共に束ねられた複数の(いかずち)が紫電の槍となって俺を穿(うが)とうと。

だけど俺はすでに圧縮した闇を頭上に展開していて、それを受け流す。


 拡散した(いかずち)が闇の大地を(おど)った。


 すでに闇による周辺把握を俺は行っていた。

その範囲は『気象(クライメイト)』の効果範囲全域。

発生の予兆が分かればどんな攻撃も防ぐのは容易い。


 ()いで俺の姿を下方から照らす赤々と燃える輝き。


『…………』


 俺が視線を下げると同時に、大地が裂けて灼熱のマグマが噴き上がった。

それを俺は闇で弾き、操作した闇で握り込むとソードクライメイトへと叩きつける。


 圧縮した闇とマグマの一撃をソードクライメイトは斬り裂いた。

翼から噴き出す闇を『千剣(ソード)』て束ねて極大の刃にし、そのまま俺目掛けて振り下ろす。


 俺は暗黒のクレイモアでそれを容易く受け止めた。

刃を軽い力で滑らすだけで、俺の十字剣はソードクライメイトの刃に深く食い込む。


 どれ程の闇を(もっ)てしても、闇を圧縮して密度を増す俺と質量を増やす事しかできない『千剣(ソード)』では力の差は歴然。


 その時。

雨が、止んだ。


 見上げた先には渦を描く暗黒の雲。

その雲から無数の切っ先が覗くと、俺目掛けて一斉に降り注ぐ。


 だけど俺はその全てを掌握。

その切っ先は向きを変え、ソードクライメイトへと襲いかかった。

その四肢と翼を貫き、大地に縫い付ける。


 身動きを封じられて。

だけどまだソードクライメイトは『気象(クライメイト)』を解除する素振りがない。


『仕方ない』


 俺は闇の仮面越しにくぐもった声で呟くと、闇で魔法陣を描いた。


『来い、スケルトン・ビショップアーキテクト』


 俺の呼び掛けに(こた)え、魔法陣を門としてその姿を現した。

(おごそ)かな白のローブを身に(まと)い、大きな杖を携えて。

頭には神々しい光の輪のような角。

その金色(こんじき)髑髏(しゃれこうべ)眼孔(がんこう)には紫の炎が灯っている。

 

 ビショップアーキテクトは俺の描いた魔法陣とは別の陣をソードクライメイトの周囲に走らせた。

そこからそそり立つのは反転した呪詛(じゅそ)で白く輝く魔物達の(むくろ)

それが折り重なってソードクライメイトを捕らえる(おり)となる。


『神殿を利用した(おり)だ。しばらくそこで大人してもらうよ』


 俺はソードクライメイトに言った。


 鳥籠(とりかご)のような(おり)(むくろ)の腕と骨を連ねた鎖が絡み付き、魔法陣の中へと引き込んでいく。


『──────!』


 ソードクライメイトは自身を貫く闇の刃を強引に振りほどき、(おり)を破壊しようと暴れ狂った。


『ドラゴン・ソードクライメイト。動くな』


 俺の命令で動きが一瞬静止。


『動くな』


 再度。


『動くな』


 さらに。


『動くな』


 なおも。


『動くな』


 俺は命令を繰り返す。


 ソードクライメイトを捕らえた(おり)は、ついに魔法陣の底へと沈んでいった。

同時に『気象(クライメイト)』が解除され、空を覆う暗黒の雲が晴れて。

雲間から陽光が差し込むと、照らされた闇が霧散して周囲に溶け込んだ。

ドロドロに大地に満ちていた闇が通常の闇へと変わる。


『ありがとう、ビショップアーキテクト』


『…………』


 ビショップアーキテクトは声もなく。

ただカタカタと顎を震わせて一礼。

そのまま俺の描いた魔法陣へと戻っていった。


 俺は周囲の闇を操作、圧縮。

黒く(かす)んだ視界が鮮明になる。


 この闇はハティのご飯にしよう。


 俺はあめ玉サイズにまて小さくした闇を懐にしまった。

そして残された光の怪鳥の残骸に目を向ける。


 闇に(おか)された1部と『千剣(ソード)』によって貫かれた箇所が(ちり)化してるけど、まだ形は保っていた。

これで王国騎士の方に一応報告はできるけど、結局これの正体や目的が分からない。


 俺はブラックドラゴンに指示して降下させた。

ムニンをおろすと、ドラゴンにはひとまずゴブリン・ロードナイトのもとへ向かってもらう。


「ムニン、こいつの過去をたどってこいつの目的を調べてくれないか」


 闇の仮面を解除して言った。


「えー、こっから辿るとさっき()てた6日前のとこまでも含めて()なきゃいけないんだもん」


 めんどくさそうにムニンが言った。

店じまいと言わんばかりに大きな片翼で顔を覆い隠す。


「……どうしても?」


 ムニンは翼の陰からこちらを覗いた。

つぶらな瞳でこちらを(うかが)っている。


「もー、仕方ないなぁ」


 ムニンは翼をマントのように巻き付けると、光の怪鳥にの前へ。

ゆっくりと瞳を閉じると、大きく目を見開く。


「…………あ、見えた」


 しばらくしてムニンが呟いた。


「何が見えたんだ、ムニン」


「女の人? にも似てるけど人間じゃないかも。おれみたいに羽がある。羽のある女の人がたくさん。その人達に渡してるのも……人、人間だ。頭の上に光の輪っかがあるよ」


 羽のある、女と?

頭の上に光輪のある人間?


「そういう人達を……集めてた? んと、違う。輪っかをこの鳥さんがつけてる。墓場とか魔物の多い土地で人を集めてたみたい」


 墓場や魔物の多い土地。

そこから連想したのは死者。

そして頭の上に光輪…………。


 俺はヘルヘイムで見た光景を思い出していた。

ヘルを倒し、死者を解放したときに彼等は頭上に光の輪を浮かべて天へと昇っていった。


 なぜ考えなかったのか。

それまで死者の魂は全てヘルが捕らえていた。

じゃあ────


 俺はその疑問を口にする。


「ヘルがいない今は、死者はどこへ行くんだ?」

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