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第1王女と王国騎士

 森の中は静かだった。

深い闇に飲まれてるけど、その闇は()いでいるように落ち着いている。


 森の中は真っ暗で何も見えない。


 俺は松明に火を灯そうと。

でもやめる。


「そうだ。試してみよう」


 俺は呟くと周囲の闇を掌握(しょうあく)

斥候(せっこう)のおじさんが風の属性でやっていたように、俺は闇を触覚の代わりにして周囲の状況を把握してみた。

草の形、本数、地面の凹凸(おうとつ)、砂利の大小木の本数葉っぱの数形苔の有無湿り気質感ふさふさの毛肌の────


 あ、まずい。

俺は濁流のように流れ込む情報量の多さに意識を失いそうになった。

1度、闇を(かい)した触覚を遮断する。


「だ、大丈夫?」


 ふらついた俺を見てスコルが言った。


「うん、大丈夫」


 俺はスコルに視線を返して。

だけどすぐに目を()らした。


「?」


 俺の態度に疑問を浮かべるスコル。

だけど俺は今、スコルを直視できない。


 怪訝(けげん)面持(おもも)ちで俺の顔を覗き込んだハティからも顔を背ける。


 闇の触覚の感度が高すぎた。

ぷにぷにの耳にもちもちのほっぺ、ふさふさの尻尾から爪先まで2人の全ての触感が俺の脳裏に刻まれている。


 もっと精度を落とさないと色んな意味で使えない。

俺は気を落ち着けて、大雑把な情報に限定して闇の触感を再度実行。

範囲も工夫して前方に広く、他は一定の距離で球状に感覚を確保する。


「よし、いい感じだ」


 真っ暗な森の中でも周囲の状況が分かる。


「そういえば2人は見えてるの?」


「見えるわよ」


「み、見えてるよ」


 2人が答えた。


 なら松明はいらないな。

このまま行こう。


 俺は2人と一緒に森の奥へ。

奥に行くにつれて魔物の数は増えてきたが脅威にはならなかった。

ハティは狼へと変身すると次々と魔物を喰らい、今はすっかり上機嫌だ。


 そして俺達は森のだいぶ深いところまで来た。

森の奥にある泉のそばに依頼の花が咲くらしい。

泉から流れてきてると思われる小川(おがわ)を見つけて辿っていく。


「────ありましたわ!」


 だけど先客がいたようだ。

声が響いてくると同時に明かりを確認できた。

煌々(こうこう)と灯る炎の(まぶ)しさに目を細めながら先へ。


 ハティは人の姿に戻り、スコルが預かっていた服を手早く着る。


 そこには複数の従者を伴った、この場所に似つかわしくないドレスの女性。

その隣には巨大な属性の炎を燃やす剣士の姿。


 剣士は誰よりも先に俺達に気付いた。

炎を灯したまま腰に差した剣の柄に手をかける。


「何者だ」


「冒険者をしてるリヒトと言います。依頼で霊薬の花の採集に来ました」


 剣士の問いに端的(たんてき)に答えた。


「まぁ、あなた達もこの花を? 残念でしたわね。花は全て(わたくし)がいただいていきますの」


 ドレスの女性が言った。

こちらには顔も向けず、次々と花をむしっていく。


「ということだ。花は諦めてもらおうか。そして早々に立ち去れ」


 剣士が言った。


 だけど依頼主は奥さんの病気の治療のために花を求めてた。

見てる限り女の人は花の全てを()んでいくつもりみたいだし、そうされると依頼主のおじさんは困ってしまう。


「聞こえなかった? 立ち去れと言ったんだ」


 高圧的な態度で剣士が言った。

殺気にも似た敵意を向けられる。


「ああ、そうか」


 ()いで剣士は納得したように呟いて。


「依頼の褒賞金はいくらだ? 金が欲しいのだろ?」


 (さげす)むような眼差しで俺達を見る。


「依頼主が奥さんの病気の治療のためにその花を必要としてるんです。1つだけでも分けていただけませんか」


「嫌ですわ。花は全て(わたくし)のもの。そのためにわざわざ森の中まで来たのですもの。きっと部屋に飾ったら素敵ですわ」


「飾るだけ?」


 俺は思わず()き返した。

希少な霊薬の花。

その花を必要としている人がいるのに、彼女はただ部屋に飾るためだけに全ての花を根こそぎむしっていくつもりだ。


「あら、文句がありまして?」


 女の人が初めてこちらを振り返った。

灰色の髪を結わえた緑色の瞳の女性。

彼女は苛立(いらだ)たしげに俺を(にら)む。


「花はあなた個人のものじゃない」


 俺が言うと従者達が動いた。

剣士も腰の剣を抜く。


「やれやれですわ」


 女の人が呟いた。

手振りで従者と剣士に待てと指示する。


「いいですの? この国にある全ては(わたくし)の父のもの。そして父のものを(わたくし)がどうしようと平民のあなたに口出しする権利はありませんのよ」


 その発言でもしやと思った。

光を反射して仄かに紫色に光る灰色の髪。

瞳の色は違うが、目元は似ていて。

あどけなさの残る彼女と違ってその顔は大人びていたが面影がある。


「自己紹介がまだでしたわね。(わたくし)はリーネ=ヒルデガルド・ロア・キングスブライド。この国を(おさ)めるキングスブライドに名を連ねるものですのよ」


 やっぱり。

彼女はフランの姉。

リーネ=ヒルデガルドはこの国の第1王女様だ。


「そしてこちらは王国騎士のレズモンド。(わたくし)の護衛ですわ」


 炎の属性を操る剣士──王国騎士レズモンドは俺達を冷めた目で見下している。


 あれが王国騎士。

灯した属性の炎は規模も密度も今まで見てきたものとは桁違い。

やはり王国騎士というのは噂に(たが)わない実力を持っているようだ。


「……そうですわ」


 リーネ=ヒルデガルド王女は何かを思い付いたのか、意地の悪い笑みを浮かべた。


「そんなに花が欲しいのなら1つ賭けをしましょう。うちのレズモンドと戦って勝ったらこの花を1輪差し上げますわ。もちろん、武器も属性もありの真剣勝負で」


 彼女は花の束から1つ、霊薬の花を掴んで差し出してきた。

花をちらつかせ、にやにやと笑っている。


 無茶だ。

いつかのならず者が使ってた炎とは違う。

バレずにあの炎に耐えることは不可能。

戦えば俺が闇の適正者であることが間違いなくバレる。


「ちなみに」


 嗜虐(しぎゃく)的な笑みで王女が言う。


「拒否権はありませんわ。負ければ(わたくし)への不敬の罪として、その場で処刑ですのよ。さぁ、レズモンド」


「御意」


 レズモンドが剣を構えた。


「ふふふ、素直に立ち去っていればこうはなりませんでしたのに」


 リーネ=ヒルデガルド王女が(わら)う。


「逃げるぞ!」


 すかさず俺はハティとスコルの手を引いて後ろへと跳躍。


「レズモンド」


(おお)せのままに」


 レズモンドが炎を拡散させた。

白に近い光輝く炎が渦を描き、炎の壁を作って俺達の退路を断った。


「せめて殿下(でんか)が名乗った時に地面に頭を(こす)り付けて平伏(へいふく)していれば違ったかもな」


 レズモンドが剣身(けんしん)に炎を(まと)わせて迫ってくる。


 やるしかない。

俺はクレイモアを構えた。


 王国騎士レズモンドと対峙(たいじ)する。

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