73話 緊急
それからの数日は充実していたと思う。
毎日子供の世話をして、料理を作ったり、寝かしつけたり。忙しいと思いながらも、こんな生活もいいのかなと思えるようになっていた。
そんな時に先生に緊急と言われて呼び出される。
「何の用事だろうな」
「そうですね。フリッツさんも一緒に、とのことでしたけど……」
私とフリッツさんは先生に呼び出されて、以前先生と会った部屋に来ていた。先生は忙しいらしく、遅れて来るそうだ。
そして暫くなんだろうと話していると、先生が扉を蹴破らんばかりの勢いで入ってきた。
「クロエ、フリッツ君。話があるわ」
「はい」
「なんだ?」
先生はつかつかと入ってきて目の前のソファに座る。その顔は険しい。
「以前貴方達が倒したというケルベロスの素材を見たわ。子供のね」
「子供……?」
「かなり大きかったと思うが……」
「知らなかったのも無理はないわ……。そうそう出てくる魔物でもない。でも、あのサイズは子供よ。ブレスも使ってこなかったんじゃない?」
「確かに……」
「噛みつきだけしか使ってこなかったハズだ」
先生が少し呼吸をして、考える仕草をする。
「ふぅー。ということはよ。奴の親が復讐にやってくる。必ず」
「そんな!」
「それじゃあここは!? いや、リッター村か!?」
フリッツさんはソファが倒れそうになるほど勢いよく立ち上がった。
「落ち着きなさい。そんなに直ぐには来ないわ。ケルベロスもバカじゃない。伊達に頭が3つもある訳じゃないからね。やつらは基本的に子を自由にさせている。だから殺されたことを知るのも時間がかかるはずよ。でも、もしその痕跡を見つけたら必ず追いかけてくる」
「倒したのは結構前ですよ? そうそう見つけられますか?」
「1年前に倒した復讐にやってきた話もあるわ。どういう理由でかは知らないけれど、恐らくやってくる。貴方達が通ってきた道を通って。それも他の魔物を引き連れてね」
「そんな!」
「今すぐリッター村に帰らないと!」
「待ちなさい。情報もなしに行っても死にに行くだけよ」
フリッツさんは走り出そうとしたが、先生に呼ばれて止まりソファにドカリと座り込み先生を見つめる。その目は縋るようだった。
「いい子ね。ケルベロスはいつか来るといっても今すぐに来るわけなじゃない。それには前兆がある」
「「前兆?」」
「そう。ケルベロスは自分の餌を飼っているの。それで周囲に魔物を侍らせている。そして気が向いた時に捕食するそうよ」
「そんな」
「何てやつだ」
「その周囲の魔物を引き連れて復讐に来る。本体の強さから語られないのと、ほとんど数自体が居ないから問題にはならなかったけど」
「それで、復讐に来るのはどれくらいなんですか?」
「分からないわ。一応周囲の魔物を使って偵察とかをし始めるようになるらしいけど、でも、それが合図になる」
「それじゃあ手の打ちようが……」
「こちらから打って出るか?」
フリッツさんが提案する。
「それは人が集まらないわ。守るならまだしも攻めに行くのは危険も大きい。冒険者はそれくらいの事は分かっている」
「それじゃあ守るためになら」
「お金はあるの? 数百匹の魔物の群れよ?」
「金ならある! ケルベロスを売った金が! それに今のうちに貯めることだって!」
フリッツさんはそう言って目の前に金貨の入った袋をドンと出した。
「その程度じゃ足りないわ。時間があるならその村を放棄してここで戦った方が賢明よ」
「それじゃあリッター村が!」
「仮にお金があったとしましょう。ただの村で守り切れるだけの設備があると思うのかしら?」
「ない……」
「それに、貴方達は行かない方がいいかもしれない」
「どうしてですか?」
「なぜだ」
「生贄にされるからよ」
「「生贄?」」
「そうよ。ケルベロスは我が子の復讐に来ている。その事が知られて、もしも村が護れないということになれば、必ず貴方達が差し出される」
「そんなことはない……とは言えないかもしれないが。ケルベロスの目的を言わなければいいんじゃないか?」
「ケルベロスの事をあまり知られていないとは言え、全く知られていない訳じゃない。現に私だって知っているから」
「じゃあケルベロスが来るとは言わずに魔物の群れが来ると言えば……」
「ケルベロスが来ることを知らないのなら、凄腕はほとんど来ないわ。それにケルベロスが来ることを伝えずに来た冒険者なんてたかが知れてるし、直ぐに逃げ出すような連中ばかりよ?」
「それは依頼してみないと分からないだろう」
「分かるわよ。これでも長年聖職者をやってるのよ?」
「……」
「貴方の村を思う気持ちはわかるわ。今は待ちなさい。リッター村で待機して、もしもケルベロスが迫った時には村の周囲を魔物が囲むはず。その時に村人を避難させて、ここに逃げ込めばほぼ問題はないわ。いくら強いといっても魔族の軍勢から守り抜いた城塞都市、ダラスの名は伊達じゃない」
「分かった……」
「フリッツさん……」
先生の言葉に返す方法はなく、従うしかなかった。その時はそう思っていた。新しい情報が入ってくるまでは。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




