72話 一方その頃勇者は⑦
勇者パーティー一行はダラスへ撤退中だったが、まだまだかなりの距離がある。そんな中、とある問題が発生した。
「ちょっとディーナ! 貴方何をやっているのよ!」
「何って、味見に決まってるじゃない」
顔を怒りに染めて怒鳴る魔法使いサラと、それを何が問題があるのかと聞き流すは付与術師ディーナだ。
「それは皆で食べるように狩ったグリズリーベアでしょうが、何で一人で勝手に食べてるのよ! しかもあんまり取れなくて美味しい所を!」
「だから味見だって~」
「あ~!」
そう言ってディーナはグリズリーベアの部位の中でも美味しいとされる部分を一人で食べきってしまう。
クロエならば今の部分は皆で分けるようにして調理していたが、ディーナにその様な事を気にすることは出来なかった。
「う~ん。やっぱりグリズリーベアはここが美味しいのよね。サラ、代わりに他の部分の肉は沢山あげるわ」
「いらないわよ……。貴方の作る料理は臭くって食べられたものじゃないわ……」
「何よ。どんな料理も真っ黒焦げにするアンタに言われたくない」
「何作ってもドブみたいな匂いをさせるアンタの料理に言われたくないけどね」
「何よ」
「何なのよ」
2人はにらみ合い、お互いの料理の腕の低さを責め合う。
そんな2人の様子を既に諦めた状態で見る剣士ルーカス。彼はそんな2人から視線を勇者ランドに戻す。彼はあれからずっと俯いたまま喋ろうともしない。以前の様に場を賑わせる事もなければ、サラとディーナと仲良くすることもない。今ではただの人形の様でコミュニケーションを取ろうとしない。
それでも彼は見張りをやってくれと言えばやるし、食事と言えば食事を取る。戦闘になれば普段通りだ。だから他の3人は心配はしていたが、いずれ戻るだろうと思っていた。女性2人はこの隙にお互いを出し抜こうとすら思っている。
勇者ランドはというと、実はかなり立ち直っていた。それでも以前の様に喋らないのは単に自分の言うことを聞かなかったルーカスや勝手に死体を燃やしたサラ、そして結局はそれを止めなかったディーナへの反抗だった。
自分がいかにこの勇者パーティーの要で、自分が何かしなければ、言葉を発しなければ困るだろうという幼稚な考えからだった。しかし、現実は勇者パーティの空気は最悪に近くても、彼が話さないことが逆に良かったかもしれない。そのためルーカスとぶつかる事もなく、ただ静かにどんよりした空気だった。
「ご飯できたわよ」
そう言ってディーナが持って来たのは泥の様に濁った色のスープだった。彼女の後ろには苦い顔をしたサラが立っている。
ディーナはそれぞれに皿を配るが、その皿にも拭き残しがあったりしてとても綺麗とは言い難い。さらにそこに盛られていくスープから放たれる悪臭はとても食事から発するものとは思えない。この時ばかりはランドも顔を潜めるしかなかった。
「おい、こんな物が料理だって言うのか?」
ルーカスも眉を潜めて鼻を塞ぎながら言う。それに答えるのはディーナだ。
「嫌なら食べなくていいわよ。というかアンタが調理すればいいじゃない。剣くらいは使えるんでしょう?」
言われたルーカスは当然腹に据えかねる。そんなことを言ってくるのは傭兵として常に戦場で戦ってきた彼のプライドに触るからだ。
「そういうお前は最近老けたか? 白髪も出てきているようだぞ?」
「な! あんたってやつは!」
「なんだ。文句があるのか」
そう言って2人は武器を持って立ち上がる。
「やめなさいよ!」
そう言って止めるのはサラだ。彼女は自分が言われていないからというのもあって、何とか平静は保てていた。それに、こういった小さな諍いはここに来るまでも何度も起きており、皆既にかなり疲弊している。それでも、お互いの触られたくない部分を攻めずにはいられなかった。
「「……」」
サラに言われて2人とも押し黙る。これ以上続けても良いことなんてなく、かと言って解決方法も見つからない。肝心のランドは黙ったまま、パーティーの形態を保っているのも奇跡的といっていい状況だった。
「はぁ……」
誰がついたため息だったのかわからない。それでも、それはその場に溶けていく。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




