64話 フェリさん
それから暫くして修道服を着た、一人の少女が入ってくる。
「失礼します……」
「今回の子供のお世話の依頼を受けたクロエです。よろしくお願いします」
「俺はフリッツだ。よろしく頼む」
「は、はい……。よろしくお願いします」
彼女は何度も洗い直したかのようなよれよれの修道女服に、髪を三つ編みにしている茶色みが強い赤毛だった。頬にはそばかすが残っていて、目はちょっと頼りなさそうにキョロキョロさせている。体つきもかなりほっそりしていて、声を聞かなければ男と間違えてしまうかもしれない。
そして扉の側で立ったままだ。
「あの、座られては?」
「あ! はい! 今行きます!」
彼女はそう言ってさっとソファに座った。さっきまで先生が自由に座っていたのに、今は出来るだけ縮こまる様にして座っている。その比較として見ると不思議だ。先生が太ってしまっているような気がして来る。
(クロエ、後でお話があります)
いけない。先生の幻聴が聞こえてしまった。
彼女は座ってからも俯いているだけで何も喋らない。
「……」
「……」
どうしよう、私たちからこれ以上言うことはないんだけど、依頼の説明とかに入ってくれないのだろうか。
「あの……」
「ひゃい!」
物凄く驚かれてしまった。
「あの、どうしてそこまで驚かれるんですか?」
「あ、いえ、その……冒険者の方は怖い方が多いと聞くので……」
「あー確かに。ですが、私もこの格好の通りシスターですし。こちらの方も冒険者ですが紳士な方ですよ」
「そ、そうですよね。す、すいません。私、人見知りで……」
「いえ、そういう人がいるのも知っているので、お名前から教えて貰えませんか?」
「あ、はい。私の名前はフェリと言います、この孤児院でシスターをやっています……」
そう言って彼女は俯いてしまう。
これは私が聞かないといけないかもしれない。
「フェリさん。それで、依頼内容を説明してもらってもいいですか?」
「あ、は、はい……。えっと、泊り込み……ということで良かったですよね?」
「はい、大丈夫です」
「でしたら……。朝はまず朝食を子供たちと食べます。その後に子供たちの面倒を見ながら遊んで貰って、昼食を食べて遊んでもらって、夕食を食べて遊んでもらって寝るだけです」
「えっと……。それだけですか?」
流石に掃除とか料理とかを作る仕事はないのだろうか? というかそれだけだと申し訳ない気が……。
「それだけです……。あ、えっとその、ダメ……ですか?」
「ダメというより料理とか掃除とかはしなくていいのかと思ってしまって……」
「そうだ。クロエの料理は領主の筆頭料理人にも勝るとも劣らない腕を持っている。だから料理はさせるべきだ」
「ちょっと、フリッツさん。変なことを言わないで下さい」
「筆頭……料理人?」
彼女が首を傾げて私を見つめている。
「違います。違いますって。流石にそんなに料理を作れません」
「そんなことないぞ。あの時のスープなど」
「フリッツさん! 話が進みませんから! だから今は!」
「むぅ仕方ないか」
良かった。フリッツさんは料理のことになると色々と残念になってしまうから注意が必要かもしれない。
「それで料理とか掃除を手伝わなくていいのかなと思ったのです」
「ああ、はい。そう言うことでしたら是非に。といっても掃除は……仕切っている人が居て、ちゃんと教育した人にやってもらいたいと言っているので……。料理を手伝ってもらうかもしれませんがいいですか?」
「私で良ければお手伝いさせて頂きます」
「はい、それでは他に……。何かお聞きになりたいことは……?」
「そうですね。建物を案内していただけないでしょうか? どこで寝泊りすればいいのかとか」
「はい……今からご案内します……」
「よろしくお願いします」
そう言って彼女は立ち上がった。
私とフリッツさんも立ち上がって彼女の後を追った。
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