63話 そういう理由で
「クロエ?」
「先生?」
私は驚いで立ち上がる。
先生も目を向いて私の事を見つめていた。
「どうしてここにいるんですか?」
「それはこっちのセリフよ。貴方、ここがどういう場所か分かってないの?」
「え? アンリ孤児院ですよね?」
「ああ、そう。知らないのね。今はアンリ孤児院だけど、もしかしたら教会直轄の孤児院になるかもしれないのよ」
「教会直轄の?」
先生は話ながら私たちの前のソファに座り、紅茶を自分の分入れて飲み始める。
「そ、その直轄の孤児院にしていいかどうかを調べるために、私とか他の教会関係者が来たのよ」
「それでいたんですか」
「そうよ。全く最初は面倒だって思ってたけど、クロエ、貴方に会えたから来てよかったと思ってるのよ? あれから何かしたの?」
「あれから……大した事はしてないんですが……」
私はちらりとフリッツさんの方を見る。
「どうした? 俺に気にせず昔のことを……いや、少し出ている」
「あ、そういうことじゃなくって。この前売った素材の話をしてもいいかなと……」
「ああ、その話を? 何でまた?」
「先生は魔物とかにも詳しいので、どうして今更出てきたのかなと」
「なるほどな」
「とっても興味深そうな話ね。ファティマ商会からケルベロスの素材が出てきたことよりも珍しかったりするのかしら?」
私はビクン! と跳ねて先生を見つめる。先生は私を呆れた顔で見ていた。
「先生はご存じなんですか?」
「この時期に珍しい魔物の情報といえばそれくらいだからね。昨日の夜にオークションをするって聞いたわよ。ていうかクロエ、そんな反応していたら私じゃなくてもバレるわよ。これからどうするのか分からないけど気をつけなさい」
「はい……」
「それと、フリッツ君ね。誰にも言わないから安心なさい。素材を買うつもりもないわ。ちょっと興味はあるから見に行く位はするけど」
「そうなんですか?」
「そりゃそうよ。私はあくまで聖職者なんだから。そんなことをしてる暇はないわ」
そう言って先生は紅茶を一口飲む。
「ありがとうございます」
「いいのよ。それで、ケルベロスが出てきた理由だけど、魔王の復活が関係してるんじゃないかって言われてるわ」
「魔王の復活?」
「そうよ。勇者が誕生したということは魔王も誕生したということ。その魔王が魔物を使役して、こちらに放っているんじゃないかって話。ま、これはあくまで噂だけどね」
「そんなことをして来るんですね」
「院ではそう言った詳しいことは教える前に貴方は出て行ってしまったから仕方ないわ。それよりも仕事の話に戻りましょうか。あんまり話しているとサボっていると思われてしまうわ」
「はい。よろしくお願いします」
「それじゃあ続けましょうか。お願いしたいことは子供の世話をすることとその護衛。護衛といっても襲われるような事はほとんどないから気にしなくていい。大変なのが子供の世話ね。貴方達にはそのお世話を数日間お願いしたいの。勿論他に受けてくれている冒険者もいるから一緒にだけど」
「ということはここに泊り込みでやるんでしょうか?」
「どちらでも構わないわ。もし泊まるなら料理とかは手伝ってもらうけど、費用とかはかからないし食事代もかからないわ。ま、ケルベロスを売ったお金があるのなら充分にあるんでしょう? 好きにしなさい」
「フリッツさんはどう思いますか?」
「せっかくなんだ。今日から少し泊まらないか? 色んな事がやってみたいんだろう?」
「はい。ありがとうございます」
「分かったわ。それじゃあ後で言っておくわね。他に聞きたいことはある?」
「そうですね。大変そうですけど、2,3日でいいんですか?」
「ああ、そのことね。それは大丈夫よ。あと数日で他の人達も帰ってくるから」
「帰ってくる?」
誰が? と思うがこの流れだとここの教会関係者だろうか。
「ああ、そっか。詳しくは話してなかったわね。今、この孤児院にはいつものスタッフの数はいない。それは何でか? 今は研修という名の巡礼の旅に出ているようなものなのよ」
「巡礼の旅ですか?」
「ええ、さっきここの孤児院が教会直轄になるかもしれないって話してたでしょ?」
「はい」
「あれはここの院長がそれだけここは力がありますよって示したいのよ。それで他にここのシスター、自分の部下に巡礼の旅っていう名の研修に送っているのよ。それも自分の子飼いの冒険者達にね」
「その、そういうことって話してしまっていいんですか?」
「良くないわよ?」
「ええ……」
先生はあっけらかんと言っているがそんな話をしないで欲しいのだけど……。
「でもこれくらいのことなら街の人間でも多少事情に詳しい人なら知っているから気にしなくていいわ。大っぴらに話すと面倒に巻き込まれるかもしれないけど、知っている分には問題ないのよ」
「そうですか……」
「そう、それでその冒険者達が数日で帰ってくるから、それまでの子供のお世話をお願いしたいの。だから数日でいいのよ」
「なるほど。分かりました。それでは受けさせていただきます」
「……ええ。よろしくね。クロエ」
「はい」
先生は院の時のように優しく微笑んでくれる。そして彼女は立ち上がって外へ向かう。
「それじゃあ他の人間に案内させるわ。少し待っていて」
「先生が案内してくれないんですか?」
「クロエ、私はこれでも忙しいの。やってあげたい所だけど、それはダメよ。ずっとここに居る訳じゃないからね」
「分かりました……」
そう言うと先生は立ち止まり、私の方へ来る。
「クロエ、本当に困ったら来なさい。その時は何があっても助けてあげるから。だからそんな子供みたいな我がまま言わないの。お姉さんでしょう?」
そう言って先生は私を後ろから抱きしめる。
「はい……」
私は先生のぬくもりを感じていた。
「はい。それじゃあちょっと待っていて。直ぐに呼んでくるから」
「はい!」
先生はそれだけ残すと部屋から出て行った。
誤字脱字報告ありがとうございます。どこでお礼を言うのがいいのかわからなかったのでこの場を借りて感謝いたします。
面白かった、続きが気になると思っていただけたなら、ブックマーク、下の評価をお願いします。
星1個でも頂けると、小説を書く励みになります。




