16話 カルラ
それからフリッツさんが帰ってくるまでの間に色々と聞かれていた。何が好きかとか、料理はどんなのが得意かとか、出身地はどこかとか色々雑談と言っていいような事だった。
「ただいまー」
「あら、もう帰ってきたのね。お帰りなさい」
(やっと帰ってきてくれた)
私は感激の涙を浮かべそうになった。例え話す内容が雑談だとしてもそれがフリッツさんの母ともなれば気になってしまう。
「母さん。もう起きてもいいのか?」
「そんなに心配されなくても問題ありません。ドン・キホーテもいますからね」
「そうは言うけどな」
「そんなことよりこちらのお嬢さんはどちら様ですか? 家に連れてくるなんて珍しいではないですか」
「ああ、紹介するっていうかもう会ってるんだろ?」
「そうですね。ただ、自己紹介していませんでしたね。私はカルラと申します。ここにいるフリッツの母でございます」
そう言って一礼して来るので反射的に私も下げてしまう。
「こちらこそ。よろしくお願いします」
「さてフリッツ、なぜこのお嬢さんをお連れしたのですか? そろそろ身を固める覚悟でも決まりましたか?」
「「っ!」」
「そ、そう言うんじゃない!」
「では嫌いなのですか?」
「そんなことないに決まってるだろ!」
「そうですか。それではなぜですか?」
「実は……真紅の髪が見られた」
「なんですって」
「え」
私危ない場所に迷い込んじゃった? と思わせるほどカルラさんの気迫は鬼気迫るものがあった。
「フリッツ。いつものは使っていなかったの?」
「使っていたよ。その前に水浴びもしてたから色がついている事は分かってた。だけど見られてしまった」
「クロエさん。このことは当然秘密にしてくださるのよね?」
「それは、はい。フリッツさんとの約束ですから」
「そう。フリッツも確認したのよね?」
「ああ。させてもらった」
「そう……。なら今日はこの家に泊まって行きなさい。この村の人間ではないのでしょう?」
「いいんですか?」
「その代わり、フリッツの髪のことについては秘密でお願いしますよ?」
「はい。分かりました」
真紅の髪ってそんなに問題があったっけ? と思わなくもないがそこまで秘密にしたいのならそれに反対する事もないだろう。というかそんなことを言ってもどうなるか分からないし。
「母さん。彼女なら大丈夫だよ」
「だとしても私はそんなに甘ちゃんじゃないのよ」
「そうだけどさ」
「そんなことはいいから、彼女が泊まる用の部屋を案内して来なさい」
「分かった。それじゃあこっちだ」
「あ。はい」
フリッツさんについて中を案内される。家の中は他に部屋が4部屋あった。カルラさんの部屋、フリッツさんの部屋、来客用の部屋、そして水場だ。水場はトイレや洗面など水を使う時に使う場所らしい。普通は家にはこんな場所はないのだが、カルラさんが魔法を使えるらしく問題ないのだとか。
「魔法を使えるなんて凄いですね。平民ではあんまり使える人がいないのに」
「まぁな。それで色々苦労もしたって聞いたから絶対にいいとは言えないんだが。今夜はどうする?」
「どうするとはどういうことですか?」
「母さんの料理を食べるか? それとも、クロエの旨い食事を振舞うかって事だよ。どっちかっていうとこっちがいいんだが」
「そうですね……。泊めて頂けるんです。私で良ければ作らせていただきましょう」
泊まるのに何もしない訳にはいかない。働かざる者食うべからずは院で習った大事な事だ。
「それは楽しみだ」
「でもいいんですか? 折角のお母さまの料理なんじゃないかと思うんですが」
「ははは、気にしなくていい。母さんも出来ればやりたくないってぼやいてるからな。そうは言いつつもやってくれるけど、料理は苦手みたいなんだ」
「そうなんですか?」
「何でも火を見るのが嫌いらしい」
「そういう方もいるんですね」
「ああ、だから気にせずに作ってくれ。というよりも俺と母さんの為に作ってくれ」
そう言ってフリッツさんは私に笑いかける。
「そう言うことでしたら喜んで!」
私も笑い返し、最高に美味しいものを作ろうと決める。
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