第四章<運命の邂逅>
妖気の気配だけでもわかる。
お父様は、物凄い妖気…、ううん瘴気を生み出す魔物と戦いを繰り広げている。
しかも一進一退の攻防。
そう言えば、お父様は言っていたわね。
自分達は人間と固い絆で結ばれた誓いがあるって。
それは確か、護りし者。
吸血鬼世界連合とも、それ故に加盟したって。
「お父様とだけは、戦いたくないわね。」
しかも、2人の気配は近づいてきている。
今のこの惨状を見たら、お父様はどう思われるかしらね?
「お父様?
美夜さん、君のお父さんが近くに来ているの?」
考え事をしているあたしの手を不意にとって、あたしの言葉を待たずに遼太郎くんは校門に向かって走り出した。
「な、何をする気?」
思わず、あたしは遼太郎くんの手を振りほどいて拒絶反応を示した。
あたしをお父様に引き合わせるつもりなのかしら?
とも思ったけど遼太郎くんから返って来た答えは、あたしの予想するものではなかった。
「ここを離れるんだ!
君のお父さんは、立派な刑事さんだって有名だから。
公明正大で人望、実績のある素晴らしい人[吸血鬼]なんでしょ?
だったら、この校庭の惨状を見たら絶対悲しまれるじゃない。
僕はもう、誰にも悲しい思いをして欲しくなんかないもの。
だから、美夜さん。
ここは逃げて!
そして、ほとぼりが冷めたら自首するんだ。」
優しいのね、遼太郎くんって。
あたしだけじゃなく、お父様の心情までも心配するだなんて…。
つまり貴方は、あたしを許せないと言っておきながら、それでもやはりあたしへの恋を断ち切る事が出来ないって事なのね。
「じゃあ、はっきり言ってあげる。
あたしは人間の優しさだとか、愛情だなんて信じられないし認めない。
例えお父様と戦う事になったとしても、あたしは逃げない。
誰があたしを阻もうとしても、それは無駄というもの。
すでにあたしは2人をその毒牙にかけた。
今更、またあんな平凡で退屈な毎日になんて戻れないし、戻りたくもないの。
でもね、遼太郎くん。
貴方の、あたしに対する恋心だけは認めてあげる。
貴方は言ったわよね?
自分の血を吸ってって。
そしてあたしの顕族にしてって。
残念ながら、あたしには感染の能力はないわ。
でも貴方に幸せな時間なら、あげられる。
永遠に続く、無限の夢を…。」
うふふっ。
本当に可愛いわね、遼太郎くん。
あたしの魅了[チャーム]に、遼太郎くんは力なく笑みで応えてくれた。
う~ん。
でもここで彼の血潮を頂いちゃうだけなんて、やっぱり惜しい。
何故あたしの一族には、吸血した人間を死徒にする能力がないのかなぁ。
彼ほどの美少年なら、ずっと一緒に付き従って欲しいものだけれど、ね。
でも無いものを嘆いていても、今はしょうがない。
とりあえず、今のあたしは何よりも遼太郎くんの血を飲み干したい渇望が強かった。
「ゆっくり味わって、頂くからね?」
あたしはペロっと舌を出すと、彼の首筋に牙を突き立てようとしていた。
が、その刹那!
一瞬大きく妖気が弾けたと思ったら、あたしの知る妖気の気配は瞬時に消滅をした。
「これは…。
まさか、お父様程の実力者が破れるだなんて。」
コツ…、コツ…、コツ…。
誰?
誰かが、暗がりからやってくる。
今、あたし達がいる校門へと。
やがて照明のある道沿いに到達し、その姿が確認出来るようになった。
「お、お父様っ!」
その光景は、とても信じられないものだった。
暗がりから姿を見せた女が手に持っているもの。
それが、お父様の首だとわかったから。
「見つけたわよ。
貴女、この男の娘よね?
今から貴女は、どうするのかしら。
貴女には二つの選択肢がある。」
何?
いきなり姿を見せたと思ったら、突然何を言うのよ。
しかし女は、あたしの戸惑う反応を無視して人さし指と中指を突き立てつつ、話を続けた。
「一つには、わたくしと血の盟約を交わして我が同胞になる。」
そう言って人さし指を折ると、次は恐ろしいほどに艶やかで恐ろしい笑顔に変わった。
「二つには、この男と同様に戦いを挑み、そしてここで無惨にその身を散らすか。
正直な気持ち、わたくしは二つ目の選択肢を選んで頂きたいですわ。
何故なら、この男は強かった。
そして戦闘前から、この男は手負いだった。
もしも五体満足であったなら、わたくしは果たして勝てたのかしら?
興味深いでしょぉ?」
ふん、つまりこの女はお父様に勝利した事に満足していないのね。
それで、あたしに勝つ事で自己満足を完遂しようとしている。
冗談じゃないわ。
あたしはそんな座興に付き合わなきゃならない程に、暇じゃあないもの。
「くっ…。」
な、何?
これは、金縛りの呪縛じゃないの。
あたしに返答を求めておきながら、そうさせないなんて、どういう了見かしら。
「あぁ、そうそう。
わたくし、ここに来た目的がもう一つありますのよ?
この男との戦いは、そりゃあ楽しい一時だったのですけれど。
そのお陰で、わたくしは空腹ですの。
離れていても、美味しそうな血の匂いには敏感だから。
うふふっ、可愛いわねぇ。」
なっ!
ゆ、許せない!
あたしの食事を奪うだなんて!
「なんだか、わたくし。
貴女とは気が合いそうですわ。
こんな美少年をターゲットにするだなんて、貴女って相当なメンクイです事。
わたくしに戦いを挑んできた、あの男は正義などという世迷い事を口にしていたのですが…。
貴女は違うわよね?
だって、貴女はもう立派な夜の世界の住人ですもの。」
そんな話はどうでもいいのよ。
それよりも許せないのは、あたしが狙い、あたしに選ばれた食事を横取りしようとしている事。
でも悔しい事に、あたしにかけられた呪縛は強く、声すら発する事が出来ない。
「随分と悔しそうね。
でもこの子は残念ながら、貴女のものにはならない。」
そして足掻くあたしをよそに、女は容赦なく遼太郎くんの首筋に牙を突き立てた。




