第四章<魔性>
一撃、二撃、三撃。
彼女、本田 京子はさながらボクシングのようなフットワークを使って最新式レーザーカミソリで斬りかかってきたけど、あたしはそのたびに軽くそれをいなし、涼しい顔をしてみせた。
「てんめぇ、いきがってんじゃねぇよ!」
強気な発言の割に、随分と息があがっているわね。
ここまで来ると、流石にもう見苦しいという言葉しか出てこない。
「ふぅ。
もう、いいかしら?
あたしはこんな座興に長時間付き合うほど、暇じゃあないのよ。」
実際、もう飽きてきた。
これ以上からかっても、新しい引き出しが増える訳でもなさそうだしね。
「次よ、次でその涼しい顔つきを血まみれにしてあげる!」
ふふぅ~ん。
随分と面白い提案だけど、その顔には明らかな怯えが感じられる。
もう正直な話、あたしは興ざめしていた。
「わかったわ。
じゃあ、こうしましょう?
次、貴女の攻撃をあたしがかわしたら。
というか、当たらないけどね。
それで最後にしましょう。」
とあたしが言い終わる前に、半狂乱になった彼女は半分やけになって襲いかかってきた。
「くぅぬやらぁぁーっ!」
汗…。
汚いわね、貴女って。
「どこ行ったのよぉーっ!」
五月蠅い人。
あたしは彼女の攻撃を、すぐさまかわして背後に回り込んでいた。
「座興は、これで終わりよ。」
あたしは本田 京子の首筋についた汗を手持ちのハンカチで軽く拭うと、静かに彼女の首筋に吸いつきつつ、牙を突き立てた。
「あぁぁぁ。
あ、あぁぁぁぁぁーっ!」
声にならない絶叫。
うふふふふっ、やっぱり美味しい。
あたしは初めて味わう人間の血に酔いしれ、細目で彼女が恐怖と悦楽に喘ぐ表情を楽しんだ。
そして、あたしの瞳は真紅に染まっていく。
「ふふっ、うふふふふっ。
本田 京子さん…。
貴女みたいな下品な女でも、その血は美味しいものなのね。
あたしには感染の力はない。
そして、致死量になるまで血を摂取しなければ人は死ぬ事はないの。
でもね?
代わりに、あたしには吸血した人間に永遠の夢を見せてあげる事が出来る…。
だからあなたにも、永遠をあげる…。
永遠に続く、恐ろしい悪夢をね!
とは言っても、もう聞いてはいないかしら。」
ふと周囲を見渡すと、先程まであれほどいた本田 京子のとりまきはどこにもいなかった。
「烏合の衆、とはよく言ったものね。
所詮、人間なんてこんなもの。」
でも、他に全く人がいないという訳でもなかった。
「こ、来ないで!
化け物、吸血鬼ぃ!」
美智子は恐怖のあまり膝を屈し、動けないでいた。
「美智子、これでわかったでしょう?
貴女の信じた学校のゴミは、所詮はゴミでしかないのよ。
でも、ま。
もうそんな事は、どうでもいいわ。
貴女には、むしろお礼を言わせて貰うわね。
さぁ、もういいでしょ?
もう思い悩まなくても、いいのよ。
そして恋に傷つく事も、もうないの。」
美智子。
あたしが宥めても、彼女の震えは止まらないみたい。
しょうがないわね…。
いろいろと辛辣な事も言いたいけれど、それも今となってはどうでもいい。




