第四章<闇への覚醒>
「許さないっ!」
え?
今なんて言ったのかしら。
何が何を許さないのか、あたしにはまるでわからない。
「要領を得ないわね。
はっきり言ったらいかが、美智子?
誰に対して、何に対して許せないのか。
まるでわからないじゃない。」
すると、あたしの問いかけに対して答えてきたのは、美智子を取り囲んでいじめる女生徒の主犯格とおぼしき人物だった。
「初めまして、かしら。
貴女の事はよく知っているわよ?
有名だもんね。
あたいは本田 京子。
ここいら一体を取り仕切ってる、言ってみれば不良少女って所かしら?
で、本題に入るんだけどさ。
あんた、ボケてんじゃねぇよ!
あぁ?
あたいの仲間、清水 美智子のコレを色目使って情夫にするなんざ、やってくれるじゃん。
当然、その可愛い顔がどうなるか。
その覚悟はあるんだろうね?」
ふふっ。
なんとも下品な口上です事。
こんな展開、もう失笑以外の何者でもないわよね。
「美智子、最後に忠告してあげる。
そんなに自分に自信がないの?
こんな学校のゴミに付き従っていたら、確実にあなたもゴミになるわよ?
ううん。
こんな連中を頼りにするようじゃ、もう貴女はゴミ以下になっているかもね。
遼太郎くんの事だけどね。
あたしは今さっき、きっぱりと付き纏わないでって忠告した所なの。
貴女が何を思って邪推したかは、わからない。
でもね。
もうこれ以上、あたしと関わらないでくださる?
あたしが吸血姫[ヴァンパイア]である事は周知の事実。
お願いだから、あたしを怒らせないで!」
そう言いながら、あたしは美智子や本田 京子とその仲間を威圧した。
が、あたしの威圧に怯えたのは2人を除く他のメンバー達だけだったみたい。
「許せない…。
ううん、絶対に許さないわ。
わたしの遼太郎お兄ちゃんを誘惑した事。」
美智子、あたしの話をちゃんと聞いてた?
「わたしがずっとずっと…。
ずっと慕いに慕ってきた、わたしだけの遼太郎お兄ちゃんの心を一瞬で奪って!
しかも、その遼太郎お兄ちゃんの恋心を、美夜!
貴女は、弄んだんだわ。
挙句、遼太郎お兄ちゃんの心をずたずたにした。
美夜さえいなければ、こんな思いをしなくても良かったのに…。
ずっと幸せなままでいられたのに…。
あんたなんか、この世界からいなくなればいいのよ!」
ふぅ。
最早、聞く耳持たずね。
そう、わかったわ。
美智子がそこのメンバーに入った訳。
苛めが怖くて仲間になったんじゃ、ないのね。
全ては、あたしへの憎悪ゆえ。
遼太郎くんへの思慕と恋心。
そして嫉妬と、その情念が貴女を狂わせてしまったのね。
なら、あたしが今何を言っても無駄でしょうね。
「と、言う訳。
ふふん、さぁて!
美智子だけならいざ知らず、あたい達に喧嘩を売ったんだから覚悟は当然出来てるわよね。」
本田 京子だっけ?
随分と物騒に、最新式のレーザーカミソリの刃を何本か指に挟んで脅しているようだけど。
まるで、お山の猿が群れをなして騒いでいるようで滑稽だわ。
視界に入れる価値もないわね。
だからあたしは外野には一切構わずに、美智子を見た。
「遼太郎くん、貴女にハンカチで口を押さえられっぱなしにされているから意識を失っているわよ?
そんなに彼の事が好きで大切に思っているなら、あなただけの押し入れにでもしまっておけば?
そうすれば、彼は誰にも心を奪われたりしないし失う事もないもの。
彼を人形か何かだと、思いたいならね?」
でも、今の言葉が美智子の逆鱗に触れたようね。
「五月蠅いっ!
人間でもない吸血鬼ふぜいが、えらそうに説教しないでよ!
あんたなんか、あんたなんか…。
今ここで殺されても人間の敵なんだから、誰からも文句言われないし悲しむ人もいやしないのよ!
お願いだから、ここで死んで?」
そう。
結局、身勝手な人間達の本音はそうなのね。
どんなに愛だの、正義だの、友情だの、優しさだの、思いやりだなんてお題目を掲げていても。
結局、人間は皆そうじゃない!
美智子、有難う。
今の言葉で全てを悟ったわ。
人間が、いかにエゴの塊で出来た産物であるのか。
もう迷ったりしない。
あたしは吸血鬼世界連合政府とも上条家とも縁を切って、闇の深淵をたゆたう吸血姫になる。
「おらぁ、その綺麗な顔も今日で店じまいだよ!」
でも本田 京子の一撃を、あたしは軽くかわした。
当然よね。
人間如きの攻撃で傷つくなんて、有り得ないもの。




