第四章<指きり>
「で、美智子さん。
貴女はあたしに何を求めているのかしら?」
この娘があまりにもはっきりとした態度をとらない事に、あたしは少し業を煮やしていた。
「えっと。
美夜さん、わたしと…。
お友達になって貰えませんか?」
なっ!
この娘、突然何を突拍子もない事を言うのかしら。
なに?
何が狙いなのかしら。
あたしと友達になったとしても正直な話、まるでメリットがない。
ううん。
それどころか吸血鬼のお仲間だ!とか、人間の裏切り者!とか言われ、疎まれて敬遠されるか。
酷ければ、いじめの対象にだってされかねない。
あたしを友人にすると言う事は、つまりはそういう事なのよ。
あたしに優しくしてくれたり、親しくしてくれた人は皆…、そういう末路を辿っている。
で、最後は突然にあたしを拒んで拒絶反応を示す。
さもなくば登校拒否をするようになるか、明らかな嫌悪に満ちた表情であたしを傷つける。
ふふっ。
考えてみれば人間の友達を得た所で、ろくな事がない。
「悪いけど遠慮しておくわ。
あたしは吸血鬼。
かつて夜の世界を支配し、人間を恐怖のどん底に陥れた魔物よ。
いい?
あたしは友人なんて、全く必要としていないのよ。
用はそれだけ?
なら、答えはNOよ。
これで満足したなら、とっととあたしの前から姿を消してくださらないかしら?」
我ながら、冷たい言い方だなぁとは思う。
でもね。
あたしの為にも彼女の為にも、こういう追い払い方が最適だと思ったから…。
「うっ、ううっ。」
はぁ。
どうもこういうのって苦手だわ。
あたしは泣かれるのが一番苦手なのよ。
だって、どう接すればいいかわからないから。
「悲しい。
美夜さん、貴方はどうしてそんなにも悲しい生き方をしなきゃいけないの?
美夜さんは、何一つ悪い事をしていないのに…。
そんなの、どう考えたっておかしいです!
美夜さんが実はとっても思いやりがあって、優しい女性なのに…。」
この娘っ!
この娘、清水 美智子さんが泣いたのは自分が冷たくあしらわれたからではなく、あたしの為?
あたしの不遇に対する怒りと悲しみ…。
あたしは思わず嬉しさのあまり、美智子さんを抱きしめてしまいそうになった。
ふっ、いけないいけない。
こんな良い娘を、あたしのせいで酷い目になんてあわせちゃいけないのよ。
「忠告してあげるわ。
あたしには絶対にかかわらない事!
そして、絶対にあたしに話しかけてこない事!
この二つ、約束してくれるかしら?」
冷たく突き放すように言ったつもりだった。
でもあたしは、自分でも気づいていなかった…。
あたしは今まで一度たりとも他人に気を許した事はない。
そして、人前で弱音を吐いたりなんて事は絶対にない。
そんなの、あたしの矜持が許さないもの。
ましてや、他人の前で涙など断じて有り得ないはずだったのに…。
でも不思議と、あたしは何度も何度も涙を拭っているのに、涙はとめどなくあふれてしまう。
あたしは、こんなにも脆かったのかしら。
そんなあたしを、彼女は優しく抱きとめてくれた。
「いいの、もういいのよ美夜さん。
わたし、絶対に貴女を悲しませたりするような友人にはならないから…。」
信じても…。
本当にあたしは、彼女を信じてもいいのかしら?
もう嫌なの。
あんな悲しい思いをするぐらいなら、あたしは1人の方がずっといい。
それなら誰に傷つけられる事もなく、誰かに罵詈雑言を吐かれて傷つかずに済むもの。
今まであたしは、そうやって自己のアイデンティーティーを守って生きてきた。
そして、それはこれからも変わらない…、はずだった。
「美夜さん。
これからはわたしが全力で貴女を守る!
こんな差別や偏見から、絶対に貴女を守り通してみせるから。
だから、もう一度だけ人間というものを信じて欲しいの。
ううん。
人間が信じられないというなら、それでもいい!
でも、わたしだけは信じて欲しい。
友達として。」
美智子さん…、美智子はそう言って小指をあたしの前に差し出した。
かなりあたしは躊躇したものの、結局あたしは彼女を信じて指きりをする事にした。




