第四章<馴れ初め>
昼休み
あたしは1人、学校の屋上で人工血液缶を飲みながら嘯いていた。
「はぁ。
いつも思うんだけど、人工血液ってどうしてこんなに不味いのかしら。」
人間には好き嫌いとかあるみたいだけど…。
でもあたし達のような吸血鬼には、これ以外に摂取出来るものがないのだから。
つまらないわよね、吸血鬼なんて。
どう馴染もうと努力しても、やっぱり浮いた存在になるもの。
人間と吸血鬼が共存繁栄を目指して、人類吸血鬼連合政府が樹立したのは遙か昔。
でも本当に今の平和、今の平穏は仮初ではないのかしら?
だって未だに人類と吸血鬼の間には、根深い溝が見え隠れしているように思う。
現に今だって、あたしは学校で友達の1人も作れていない。
この学校には、吸血鬼があたしだけしかいないのもあるんだろうけどね。
結局、人間は本能的にあたし達を恐れている。
そして疎ましく思っているのよ。
あたし達がどれだけフレンドリーに接したとしても、決して交わる事なんてないんだわ。
「あの…。」
えっ?
あたしは今まで同じ学生の娘に声なんてかけてもらった経験もないので、かなりドキッとした。
見れば、あたしと同じクラスにいる、影の薄い娘。
顔はとりたてて美人ではないけれど、それなりに容姿は悪くない。
しいて言えば、そばかすが目立つかしら?
でも彼女の場合、そのそばかすがむしろキュートさを引き立たせているわね。
でも、急になんの脈絡もなくあたしに声をかけてくるなんて…。
相手の真意もわからないので、あたしはわざとぶっきらぼうに言ってみた。
「何かしら?」
幼い頃に嫌な経験を沢山しているので、思わず自己防衛の本能が働いた。
「わ、わたし…。」
何?はっきりしない娘ねぇ。
「用がないなら、気安く声なんてかけないで下さる?
あたしは吸血鬼なのよ。
まぁ、有名だから知っているとは思うけど。」
あたしの存在は、すでに学校中に知れ渡っている。
嬉しくない意味でね。
影では、あたしが誰かを襲って吸血鬼化させて、この学校を乗っ取ろうとしてる。
なんて馬鹿な噂を吹聴している輩までいる。
人間があたしをどう思おうと勝手だけど、そんな噂なんかに振り回されて泣きを見るのは小学生の時に経験済みなので沢山だわ。
「わたしは、清水 美智子って言います。
あの、わたし。
美夜さんが迷子の子猫に餌をあげて微笑んでる所を見たんです。」
え?
ちょっとぉ、そんな所を見られてたなんて!
あたしは恥ずかしさのあまり、俯いた。
「あんな優しい表情の出来る女性に、悪い事なんて出来るはずがないって思います。
学校の皆が、美夜さんを悪く言っているのは知っています。
でも、わたしは信じません。」
ふん。
あたしは騙されないわよ?
いつもそうやって誰かが興味本位であたしに近づいては、あたしの事をろくに知ろうともしないうちにありもしない噂話をでっちあげて、クラスの人気者になろうとしていたから。
あたしはもう、振り回されて傷つくのはごめんなの!
「だから?
あんなのはほんの、気まぐれに過ぎない。
あたしは吸血姫。
不用意に近づくと、襲うわよ?」
あたしはわざと自分の牙を見せて追い払おうとした。
「大丈夫っ!
あなたがわたしを襲うなんて、ある訳がないもの。」
なっ!
なんなのよ、この娘。
あたしが怖くないっていうの?
「いろいろ辛い思いをしたんでしょうね。
辛い思いや、悲しい思い。
でも、わたしは美夜さんを信じる。」
そう言うと、清水 美智子さんは襟首を引っ張ってあたしに首筋を見せた。
「な、何考えてるのよ!
本当に襲われたら、どうするつもり?」
すると、彼女はとっても可愛い、まるで天使を思わせるような表情で笑顔を見せた。
「ほら、ね?
本当に人を襲うような吸血鬼なら、絶対にそんな事を言ったりしないもの。」
なんだろう。
お母様以外の人から、あたしは初めて安らぎを感じていた。
お母様はお父様と同じで、生粋の吸血鬼なんだけどね。




