第四章<追憶の吸血姫>
西暦5452年
京都、上京区
「行ってきます。」
あたしは上条 美夜。
この当時は、まだ中学生だった。
「行ってきまぁす。
あ、あいたたた…。」
そして玄関先で転んだ、あどけなさの残る小学生は美紅。
「大丈夫?
ほんに美紅ったら転んでばかりしてたら、お嫁さんの貰い手がなくなるよって。」
お母様…。
明るくて美人だけど、かなり能天気なあたしのお母様。
思えば美紅は、お母様に似ているのかもしれない。
因みにお父様は、家にはいつもいない。
何故なら、刑事の仕事っていつも多忙らしいから。
お父様は吸血鬼犯罪を犯す犯人を専門に逮捕する為に、ほうぼうを駆け回っている。
だからあたしはここ数年、お父様の姿を見ていない。
オールバックのシャープな顔立ちが凛々しい、ダンディーで素敵なお父様…。
上条 秀人の名前を聞けば、大抵の吸血鬼は震えあがるって言われるくらいの凄腕らしい。
「ふえっ、ひっく。
痛いよぉ、おかぁたまぁ。」
ふん、またなの?
本当に美紅ったら、この頃からドジで甘えん坊。
「傷なんて、あたし達は吸血鬼なんだからすぐに治るわよ!」
とあたしが怪我をした箇所を唾でなおしてやろうとしたら…。
「いやっ!
お姉ちゃんの唾なんて、きちゃなぁい。」
ふん、ガキ。
「だったら勝手にしな!
あたしはあんたのお守りになる為に、姉になったんじゃないのだからね。」
と言ってやったら、美紅ったらさらに泣きだした。
「ふえぇーん。
美夜姉ちゃんが私をいじめゆよぉ。」
ふん。
これだからガキは嫌いよ。
「美夜ちゃん。
あなたはお姉ちゃんなんやから、もっと優しゅう出来ませんの?
美紅ちゃんはほん、泣き虫やさかい。」
お母様…。
あなたはそうやって、いつまでもいつまでも美紅を甘やかして育てるつもり?
そんなだから、いつまでたっても美紅が成長しないのよ。
「あたしは美紅の、ベビーシッターじゃないわ。」
とあたしは捨て台詞を残し、咎めるような悲しい顔で見送るお母様の視線を無視した。
「おかぁたま、お姉ちゃんは私の事を嫌いなの?」
と美紅が言ったのに対し、お母様は優しく美紅を説き伏せたという。
「美紅。
あなたにとって、大事なお姉ちゃんやおへんの?
姉妹は仲良ぅせなあきまへんえ。」
そんなお母様の言葉を聞いたからか、安心した美紅は笑顔で小学校へ向かったみたい。
市立 雅中学校
「きりーっつ!れい!」
学級委員長の声に反応して、全員が同じ挨拶を行う。
「有難うございましたぁ!」
ふん、つまんない。
いつもと変わらない風景。
そして、いつもと変わらない平穏な毎日。
あたしは着席してから授業そっちのけにして、窓の外を眺めていた。
この学校で唯一、あたしが好きなのは屋上でボ~っとしている時間と、この窓の外を眺める事。
なんだろう、このやるせなさは。
そしてなんだろう、この平穏という退屈さ。
こういうのって、アンニュイっていうのかしら?
そんなあたしが気に食わないのか、いつも決まって科学の先生はあたしを目の敵にする。
「それでは、上条 美夜!
この問3の問題の答えはなんです?」
はぁ。
あたしが授業をさぼってるからといって、勉強が出来てないと本気で思っているのかしら?
まぁ。
この先生って見た目は悪くないし、背はスラッとしてて高い。
ダサい眼鏡さえはずしたら、良い線いってるとは思うんだけどね。
「液体から固体に変化する事は?ですよね。
答えは凝固です。」
ふん。
よりによって吸血鬼にとって、一番簡単な問題じゃない。
血液がまさに、そうなんだから。
「宜しい。
だったら問4の答えは?」
はぁ?
そういうのって連続で答えさせるものなの?
「固体から気体に変化する事は、昇華です。
因みに固体から液体に変化するのは、融解です。
なんでしたら、全ての問いをお答えしましょうか?」
とあたしが噛みつくと、その先生は黙したまま授業を再開した。
まったく。
良く出来ました。
とかなくても、せめて着席して構いませんとか、宜しいですとか、声をかけるのが普通でしょうに。
まぁ、いいわ。
あたしは不機嫌になりながらも着席し、また窓の外を眺めていた。




