短編2<上条 美紅の受難>
「ふぅ、よぉっく寝たぁ!」
私は思わず寝過ぎて非番の一日が終わってやしないかが気がかりになって、思わず目覚まし時計とカレンダーをみた。
「ぃよっし!!」
どうやら非番の一日が始まったばかりの、午前9時。
今日は一日中、思いっきり遊ぶプランが満載だったので思わず気合いが入った。
こないだの非番は、もう最悪だった。
なにしろ、明日は非番だからと気を許して思いっきり眠ったの。
で、朝10時に起きてラッキーと思ってカレンダー見たんだけど…。
非番まる一日眠ってて、目覚めたら非番の次の日の朝だったってオチ。
さらに最悪な事に、遅刻のおまけつき!
あぁ、もう思い出したくもないわ。
あの時の春樹の説教は、そりゃもう長かったなぁ。
なので!
それを踏まえて私はイトリで再度購入した、棺桶形ベッドの中に目覚まし時計を10個も入れておいたのよ。
かなり五月蠅かったけど、これは名案よねぇ。
締め切った棺の中で反芻する目覚まし時計に殺意すら覚えたけど、でもそのおかげで非番をエンジョイ出来そうなんだもの。
「さて、と。」
とりあえずは朝食朝食♪」
私は最近暑くなってきた事もあって、いつもの缶ジュース[じゃない、人工血液缶]に一工夫を加えてあるのよねぇ。
どんな工夫したかって?
ふっふぅ~ん。
なんとっ!
人工血液を缶から移して凍らせてあるの。
まぁ、言ってみれば人工血液シャーベットっ!って所かしら。
私は非番を睡眠で失わなかった上機嫌さから、思わず台所で口笛を吹いていた。
「しっかし、これは失敗だったかしら?」
失敗って人工血液シャーベットの事じゃないわよ?
実は先日、アマダ電機のホームページで冷蔵庫を買ったのよ。
所が!
実物は写真とは大違いで、とても独身者向けとは言い難い、大きな冷蔵庫だったの。
吸血鬼が市民権を得て以降、少子高齢化が解消されて大家族が増えたのはいいんだけど…。
でもだからって小さい冷蔵庫の販売をおざなりにするのって、どうかと思う。
だって私のように独身者とか、単身赴任の人だっていっぱいいるんだから。
なのにテレビでもラジオでも新聞広告でも、宣伝するのは大きな冷蔵庫ばっか!
で、やむを得ずパソコンで調べてたら独身者にぴったり!なフレーズの冷蔵庫が売ってたの。
思わずこれだっっ!と思ってすぐに購入したんだけど…。
届いた冷蔵庫は2人用の大きな冷蔵庫…。
コレって絶対に詐欺じゃない?
まぁ、吸血鬼の方にも使いやすいというシステムが気にいったのが一番の購入理由なんだけどね?
なんと、それは人工血液缶を大量にキープしておける人工血液缶専用のひきだしがついているのよ。
人工血液が、一番美味しく飲める温度に調節してくれるという高性能。
冷たすぎず、熱過ぎず、人肌の温度なんだって。
ただ、1人用にしては大きすぎるのよ!
まぁ、サイズや説明書きを詳しく読まなかった私にも、責任があるのかもしれないけど…。
でまぁ、その話は置いといて。
「どれ、美味しく出来てるかなぁ?」
正直な話、私はたまに署内でアイスを美味しそうに食べている同僚の皆が羨ましいって思ってたのよ。
因みに春樹がアイスを口にした所は見た事がない。
暑い暑いと言う割には、ね。
で、代わりに好物のかけそばをやめて、ざるそばを黙々と食べたりしてる。
なんというか、個人の好みなんだろうけど古風というかおじさんっぽいというか…。
あんもぅ、やめやめ!
せっかくの非番の休日にまで、春樹の事なんか思い出したくもない。
「あ、あれ?」
なんだか妙、なの。
ちゃんとシャーベットみたいにはなってるんだけど、色あいが…。
「とりあえず、食べてみようかな。」
私は同僚の皆が言う、キーン!を味わってみたかったのだ。
「ぐえっ!
な、なにこえ。」
正直言って、不味い。
いや不味いどころか、口にするのも気色悪い。
だってだって、だってね?
味が濃かったり薄かったりするぐらいは、まぁしょうがないとして。
氷がデロデロにゲル化してて、しかもそれが口の中でひっついてくるのよ。
味も、まるで人間のゲ[お食事の最中の方には申し訳ありません、自主規制]みたいな色合いで酸っぱい匂いが広がるのよ。
って、たまに繁華街で嗅ぐぐらいでしか知らないけど。
「きゃあぁぁ、トイレぇ!」
後はもう最悪!
私は散々な苦しみで冥府魔道をさまよい、そして夜遅くまでそれが続いた。
「はぁはぁ。」
苦しみから解放されたのは、深夜3時。
私はあまりの悔しさと悲しみに、残っていたシャーベットを投げ捨てて空き缶を睨んだ。
「こぉぉのぉぉぉーっ!」
思わず私は空き缶を握りつぶそうと思って、手に取った。
「あ…。」
そして、思いっきり脱力ぅ。
成分一覧の下に、こう書いてあったから。
絶対に凍らせないで下さい。
成分が化学変化を起こし、下痢や腹痛のもとになります。