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吸血鬼犯罪捜査官 美紅  作者: 城島 剣騎
<第3章>アイドル恐喝殺人事件
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第三章<対峙>


正直言って、私は激しく動揺していた。

闇の組織ブラッディマリアに誘われた事では勿論ない。

それに八神 咲子さんと桜庭 優の悲しき過去を聞いたからでもない。

そう。

世界吸血鬼連合政府を毛嫌いして家出した私の姉、上条 美夜。

彼女がブラッディマリアの幹部となり、そして八神 咲子さんを狂わせ、あまつさえ私までをもブラッディマリアに勧誘しようとしている事実に、なの。

そして姉をそんな闇の深淵にまで堕ちる前に、連れ戻せなかった自分自身のふがいなさ。

「冗談じゃ…ない、わよ。

私は姉さんを必ず悪の道から救い出してみせる、必ずね!

人間には確かに御し難い負の感情がある。

だからこそ罪も犯すし、それを取り締まる為に警察組織があるのよ。

でもね、同時に人間には人を思いやる優しさがある。

貴女だって元は人間じゃない!

吸血鬼も人間も、感情があって正義の感情もあれば、悪の感情もある。

それに愛情だってちゃんとあるじゃない。

そりゃ、八神 咲子さんが桜庭 優さんから受けた悲しみや苦しみ、憎しみは充分わかる。

でもね、だからといってそれが犯罪を犯してもいいって事にはならないのよ?

お願い、八神 咲子さん。

罪を償って吸血鬼として、新たな未来を。

そして幸せを掴んで!」

でも八神 咲子さんは私の叫びに対して、恐ろしい程の形相で睨みつけた。

「全然違うのね、美紅さん。

貴女は姉の美夜さんとは全然違う。

正直言って、失望したわ。

美夜さんには悪いけど、そんな胸糞悪い綺麗事をほざく貴女には吸血鬼を名乗る資格はない!

だから貴女には、ここで死んで貰うわ。

顕身っ!」

な、なに?

八神 咲子さんの顕身した姿は、恐ろしい程醜くて死臭が楽屋中に充満した。

「わが名はスンダル・ボロン。

同じ吸血鬼だから、そして美夜さんの妹だからと思って今まで手控えしていたけど…。

でも、今からは容赦しない。

さぁ。

自分の本能、そして血の渇望を無視して人間如き私達の餌に媚を売る者に死を!」

来る。

八神 咲子…、スンダル・ボロンは瞬時に両手を伸ばし、伸縮自在な両腕で攻撃を開始してきた。

くっ!

なんて速さなの。

かろうじて最初の一撃をかわす事には成功したけど、このままじゃ捕まってしまう。

しかし、既に私は油断をしていた。

伸びてきた左腕の攻撃を確かにかわしたはずなのに、腕は鞭のようにしなって私を追尾してきたのだ。

「しっかりしろ、美紅!」

え?

危うく掴まれる所を、楽屋に入りざまに抜刀して腕を斬り落とした春樹に私は救われた。

が、スンダル・ボロンは左腕を何事もなかったかのように復活させて右腕で再度襲いかかってきた。

「流石は九条家に伝わる妖刀、斬妖剣[紅蓮]ね。

でもいいの?

その刀って使用者の命を削る武器なんでしょ?」

どうして、どうして春樹があんないわくつきの刀を所持しているの?

それは家出した姉さんが持ち出して所在不明になっていたものなのに…。

そういえばアマーリエさんの時に抜刀して私を助けてくれたのも、あの刀だった。

「気を確かに持て、美紅。

お前は悪に堕ちた姉とは全然、違う。

ドジでまぬけだが、心優しい大事な俺のパートナーだ。

だから自信を持て!」

春樹ぃ。

私は春樹が初めて自分をパートナーと認めてくれた事が嬉しくって泣いた。

だって、今まで散々私にパートナー失格だ!なんて罵っていたから。

すると春樹は、泣いている私の頭を優しく撫でた。

「ふん、泣く奴があるかアホぅが。

今はこいつをどうにかしなければならんのだ。

スンダル・ボロンと言ったな。

確かスンダル・ボロンはインドネシアに古くから伝承で伝わる吸血鬼のはず。

スンダル・ボロンとは、「えぐれ女」という意味だ。。

ジャワ島の吸血鬼で、強姦されて自殺した女性が、復讐を遂げるために墓場から蘇るという。

スンダル・ボロンは、白い服を着た美しい女性の姿で男性を誘惑し、殺してしまうという。

復讐を終えると、その男の血を啜る。

ふん、まさに八神 咲子に相応しい姿だな。」

そう言うと春樹は態勢を立て直し、平晴眼の構えをとった。

「うん、有難う春樹。

でもね、春樹。

貴方がどういった経路で私の姉と接触して、その妖刀を入手したのかはわからない。

でもその妖刀が威力と引き換えに春樹の命を確実に削るって事を知っている以上、もう私は春樹にその妖刀を振るわせたりしない!

それに春樹、言ったよね?

戦闘に関しては自分は口出ししないって。」

でも春樹は私の決意を聞くと、突然笑い出した。

「ふっ、ははははは!

お前に気遣われるとは俺もやきがまわったな。

アホぅが。

俺は基本的には、と言わなかったか?

いらぬ心配をする前に、スンダル・ボロン確保に集中しろ!」

なによぉ、人[吸血姫]が心配してるっていうのにぃ。

やっぱり春樹は春樹なのだわ。

「スンダル・ボロン。

九条 美紅は確かにお前と同類の吸血鬼だ。

だがな、あのアホぅはお前とは違う。

あいつには確たる正義感があり、深い情愛がある!

犯罪者に人も吸血鬼も格差はない。

大事なのは正義か悪か、それのみが最重要なのだ。

まぁ、貴様や美紅の姉である美夜との違いは他にもあるがな。

ドジな所や間抜けな所、それに…。」

はぁ~るぅ~きぃぃ~?

「ちょっと春樹ぃ、褒めるか貶すか統一しなさいよね?」

思わず私は話に割り込んだ。

でも春樹ったら、無表情な顔つきで話を続けた。

「別にアホぅを褒めるつもりは毛頭ない!

ましてや貶すつもりもないぞ?

俺が言っている事は全て真実なのだからな。

仮にもパートナーにされてしまった以上、少しぐらいは美点を見出しておかねばやるせなかろう?」

くくっ。

ムカつくムカつくムカつくぅ!

やっぱりやっぱりやっぱり春樹は春樹よね。

春樹の言葉に、一瞬でもジーンとした私が馬鹿みたいじゃないのよ!

そんな私達の会話に、スンダル・ボロンはあきれ果てた顔をしていた。

「夫婦漫才は終わり?

なら、もう悔いはないわよね。

貴方達にはここで死んで貰うわ。」




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