第三章<決着>
来るっ!
しかも今度はスンダル・ボロン自身も素早い動きで移動しつつ、伸縮自在な両腕を伸ばして私達に攻撃してきた。
「美紅っ!」
いけない!
突然の攻撃に対処出来なくって、迂闊にも私はスンダル・ボロンの腕に捕まってしまった。
「ちっ、アホぅが!」
すかさず春樹が抜刀術でスンダル・ボロンの両腕を斬り落とすと、そのまま春樹は私の肩を抱いて間合いの外まで後退した。
そして…、私は春樹の拳骨を甘んじてうけた。
「こぉの、どアホぅ!
戦闘は既に開始しているのだ。
ぼさっとしている暇があるなら、とっとと顕身しろ!」
う、うぅっ。
春樹の前で顕身かぁ。
別にいいんだけど、なんか春樹に私の顕身した姿を見られるのって嫌だなぁ。
と私が躊躇していると、春樹はさらに顕身を急かした。
「別にお前の顕身した後の姿なんぞ見ても、俺はなんとも思わん。
そもそも俺はお前の姉、九条 美夜の顕身した姿を見ている。
いいから、ぐずぐずするな!」
全く春樹ったらぁ。
そりゃあね、顕身したからって私の顕身した姿は別に醜くはないわよ?
でもね、だからってそんな言い方しなくってもいいじゃない。
顕身するのって、結構恥ずかしいのよ?
そういう女心を春樹にわかれって言っても無理なんだろうなぁ。
あ。
明らかに春樹は苛々してる。
「美紅っ!」
びくっ!
「はいはい、顕身っ!」
私は顕身の言葉と同時に、全身を炎で包まれた。
炎は激しい業火となって天井を貫き、その炎はやがて凝縮して曼荼羅を描いて私の背中で輝く。
うーん。
これってまるで大仏か菩薩の像みたいなのよねぇ。
その姿を見たスンダル・ボロンは思わず本音を漏らした。
「やっぱりわたしのような使徒と違って、真祖は美しいのね。
私を救ってくれた美夜さんもそうだけど、思わず嫉妬と羨望を禁じえないわ。
でもまぁ、いい。
今にその姿を醜い肉片に変えてあげるから!」
ひぃぃ、怖い怖い。
スンダル・ボロンの憎悪の瞳を見て、私は思わず足が竦んだ。
「おいおい。
向こうは使徒、お前は真祖の家系だろうが。
ったく情けない。
が、まぁお前らしくていい。
いいか、作戦はこうだ。
戦術の基本は近接戦闘と遠距離戦闘をいかにして生かすか、だ。
俺が前衛として近接戦闘をしかける。
いわゆる陽動だ。
お前はひたすら妖力を高めておけ!
そして俺が合図したら、お前が奴に止めをさせ!
いかにお前がアホぅでも、それぐらいは造作もないだろう?」
なるほど。
それって要はRPGにおける王道陣形よね。
察するに春樹が騎士で、私は魔術師って所かしら?
「わかったわ。」
私は短く返事をすると心を静かにして意識を集中させた。
「ふん、それでいい。
さて、スンダル・ボロンよ。
俺も正直、あのアホぅは戦力としてあてにはしていない。
だからどうだ、俺と一騎打ちというのは。
お前が勝ったなら、あのアホぅは好きにするがいい。
俺の命が滅するのが先か、それとも貴様の敗北が先か。」
すると春樹の提案に、スンダル・ボロンは鼻で笑いながら高笑いをした。
「ふふふっ。
ほーっほっほっほ!
そう、貴方もあの女はお荷物だって言いたいのね。
でもくだらない。
貴方がどんな策謀を張り巡らそうと、わたしは貴方にも、そこの馬鹿女にも負ける気がしないわ。」
なっ!
ば、ば、馬鹿女ですってぇ?
っていけないいけない。
集中力を切らさないようにしなきゃ。
で、私が何故こんな集中力を必要とするのか?
答えは簡単。
真祖の秘めた攻撃力って実は凄いの。
何も考えずに攻撃したら、多分使徒なんか一瞬で焼き尽くされてしまう。
でも私は刑事であり、犯罪者を逮捕して法の裁きを受けさせ改心して貰うのが仕事。
決して犯罪者を殺害する為に妖力を使ったりはしない。
その手加減が難しいから、だからこそ凄い集中力を要するのよ。
カキーン!
春樹の刀と、恐らくはスンダル・ボロンの鋭い爪が激突した音かしら。
目をつぶっていても、春樹とスンダル・ボロンとの激闘がわかる。
春樹はサイドステップを使って巧みに攻撃をかわしながら、隙を窺っている。
「ふん、アホぅが!
お前の動きや、その思考はだいたい見えた。
どんなに素早い動きでも、先読みすれば返し技やカウンターで対処は出来る!」
でも、その割に春樹の息遣いは荒い。
これは相当苦戦しているわね。
まぁ、当然と言えば当然か。
いくら強いって言ったって春樹は人間なんだもの。
対してスンダル・ボロンも無傷ではない。
目に見えない程の速さで先程から攻撃をしているのに、その全てが春樹には通用していないから。
明らかに自分の方が強いという自負があるだけに、今のこの状況は精神的にかなりこたえているはず。
「おのれ。
おのれ!おのれ!おのれぇぇぇ!」
スンダル・ボロンは徐々に、怒りで動きが単純になってきている。
これが春樹の計算だったのね。
動きが単純になれば、それを回避するのは当然、楽になる。
スンダル・ボロンの単調な攻撃に、春樹は最小限の動きで回避している。
それがまた、スンダル・ボロンにとっては忌々しい。
そろそろ、頃あいね。
集中力を爆発させた私は、開眼して春樹の指示を仰いだ。
「今だ、美紅っ!」
春樹の指示を受けた私は、掌から炎の塊を召喚してそれをスンダル・ボロンに投げつけた。
「なっ!
おのれぇぇぇ!」
春樹の企みに気付いたスンダル・ボロンであったが、時すでに遅し。
「正義に背き、法律に背く、悪しき吸血鬼よ!
闇にのまれし吸血鬼に光をっっ!」
私が生みだした球体の炎の塊を、スンダル・ボロンは紙一重でかわした。
「無駄よ、八神 咲子さん。
私達一族が生みだす炎はホーミングミサイルのように、どこまでも対象者を追尾するの。
さぁ、観念なさい!」
それを聞いたスンダル・ボロンはニヤリと嘲笑った。
まぁ、考えている事ぐらいわかるわよ。
私の方に駆け寄って、その炎を私にぶつけようって考えてるんでしょ?
でも甘いわね。
そんな私にでも読み取れる思考を、春樹が気付かないと思ってるのかしら。
というか、春樹の存在を忘れているわね。
「アホぅが!」
炎を回避するのに夢中だったスンダル・ボロンは、背後から春樹に羽交い絞めにされた。
そして球体の炎の塊は無防備となったスンダル・ボロンに命中し、スンダル・ボロンは為すすべもなく業火に焼かれた。
「何故…。
何故私が、こんな目にあわなければ…ならないのよ。
悪いのは、あの男…なのにっ!」
業火に焼かれてのたうちまわるスンダル・ボロンを見て、私は泣いていた。
「ごめんなさい。
全部…。
全部っ!
私の姉が悪いのよ!
そして貴女がとった行動は、同じ女として痛い程にわかるの。
だって、仮に私が貴女と同じ立場で同じ目にあったら…。
私は、貴女と同じ凶行に及ばないって言いはれる確証もないもの。
でも、凶行に及んだ貴女を助ける事は出来るわ。
同情なんかじゃなく、ね。」
笑った?
今、確かにスンダル・ボロンは優しく穏やかな顔つきで笑った。
そして静かに瞳を閉じて、スンダル・ボロンは意識を失った。
それを静観していた春樹は、まるで何事もなかったかのようなクールな顔つきで煙草を吐きながら呟いた。
「ふぅ。
終わったな、これでこの案件も。」




