第三章<衝撃>
「な、なんて事を…。」
私はこれまでにも人が死んでいたり殺されている現場を見た事は何度もある。
まぁ、刑事やってたら当然よね。
でも私が今、目の当たりにしているのは吸血殺人が行われたばかりの衝撃の現場。
吐き気さえもよおす程の惨劇だというのに、私は直後から匂い立つ血の甘い香りに我を忘れそうになっていた。
そして、それを見ていた八神 咲子さんは恐ろしい程に残酷に笑った。
「ふふん。
おーっほっほっほ!
全く同じ吸血鬼だというのに、人間なんかの美徳に踊らされて哀れな娘ね。
どれ程の我慢をしていても、わたしには貴女が血を求めているのがわかるわ。
人工血液なんかで、わたし達が満足する訳なんてないものね。
刑事さんもくだらない見栄は捨てて、素直に自分の欲求に従ったらいかが?」
冗談じゃないわ!
私はいかに身は吸血姫だとしても、心まで腐った悪鬼にはならない。
春樹は言ったもの。
心に光がある限り、お前は人間なのだと!
だったら私は人生の終焉を迎える最後まで人として生きる。
「教えてあげる。
桜庭 優と私はかつて、ドラマやグラビア撮影、ライヴの合間に幾度もの蜜月を繰り返した。
そう、あの時のわたしは人生の絶頂期だったのかもしれない。
多忙を極めるマネージャーの日々でも、わたしは幸せだった。
でもあの男。
桜庭 優がわたしにした惨い仕打ちは絶対に許せない!
わたしが妊娠をした事を伝え、貴方の子供を産みたい言ったら急にその態度を豹変させたのよ。
妊娠したわたしのお腹に何度も暴行を加え、お腹の子供を堕ろさせようとしたの!
当然、その仕打ちに耐えかねたわたしは、警察に訴えようとした。
そして…、その途中でわたしは桜庭 優に背後からナイフを刺された。
わたしの人間としての人生は、そこで幕を閉じたの。
でもそんなわたしを助けてくれた人…、ううん、吸血姫がいたの。
大量の失血に意識は乏しくなり、あと数分もすれば絶命するという時にわたしはその吸血姫に血を吸われて新たな命を授けてもらった。
そう、女刑事さん。
ブラッディマリアの幹部であり、貴女の実の姉である上条 美夜に!」
ね、姉さんが…。
なんだか衝撃に次ぐ衝撃で、私は混乱しそうになっていた。
「ちょっと待って。
いくら真祖といっても、上条家の吸血鬼には感染症の効力なんてないわよ?」
すると私の疑問に八神 咲子さんは明快に答えた。
「うふふっ。
美夜さんは言っていたわよ、上条家は捨てたって。
そう。
ブラッディマリアの首領と呼ばれる方に、その血を提供し交配したってね。」
なっ!
じゃあ愚かにも姉さんは自ら感染症の力をその身に植えつけたって事?
「話を戻すわよ。
私は整形手術をして後、何食わぬ顔で再びsprintersのマネージャーに復帰した。
偽名も使ってね。
それもこれも、全ては今日の復讐の為だったのよ!
貴女のお姉さん、上条 美夜が言っていた事は正しかったわ。
人間なんてくだらない。
人間なんて所詮は嘘や嫉妬や妬み、偏見、そして自分勝手で自己中心な生き物なのよ。
そんな負の感情に左右されたり欺瞞に満ちた連中をどうして擁護する必要があるの?
人間なんて家畜同然。
私達のような高貴な吸血鬼の為の食材でしかないのよ!
同じ吸血鬼の貴女にだって、わかるでしょ?
九条 美紅さん。」
な、なんで私の名前まで…。
「全て知っているわ。
今回の犯行も全てはわたしがしくんだものだから。
そして貴女のお姉さんの密名もあるしね?
どう、上条 美紅。
くだらないアブジーなんて警察組織を抜けて、貴女の姉の待つブラッディマリアに来ない?
そうすれば貴女もくだらない正義なんか価値観、すぐに変わるわよ?」




