第三章<惨劇>
なんですってぇ?
と言いたいけど否定出来ない自分が悲しい。
「いいか、恐らく真犯人の狙いはこうだ。
あらかじめ真犯人は新田 新に詳細な筋書きを伝えておいた。
そして新田 新はそれを敢行する。
もちろん、真犯人は新田 新が知恵おくれのドジな男である事は知っている。
にもかかわらず真犯人は任務遂行するのに新田 新を使っている。
新田 新は姉さんと呼んでいたが、恐らくは実の姉ではないだろう。
仮にも実の姉であるのなら、弟をこんな非情に捨て駒としては使ったりしないだろう。
自分を姉と慕ってくれているので好都合…、というのもあるだろうが。
肝心なのはこの先だ!
真犯人の目的は新田 新に桜庭 優を殺させる事ではない。
要は、今回のような騒ぎを起こさせて全員をパニックに陥れる事が真の目的。」
ちょっと待って?
じゃあ、私は慌てて全員をこの場から退避させたけど。
でもこれって全て犯人の筋書き通りって事じゃない?
顔色を変えた私を見た春樹は、優しげに笑った。
「お前でも少しは危機的状況というものがわかるようだな。
だったら急いで犯行が行われる前にホシを確保しろ。
この道化は俺がなんとかしておく!」
と言われるまでもなく、私は全力で駆け出していた。
だって真犯人にうまうまと乗せられて、この状況を作り出してしまったのは私なんだもの。
「ぼ、僕を無視するなぁぁ!」
救護室のドアノブに手をかけた私めがけて、新くん[モルモー]が強襲してきた。
「きゃあぁぁっ!」
突然の出来事に、私は思わず目を閉じてしゃがみこんだ。
「アホぅ。
そんな所にへたり込んでいる場合か!」
恐る恐る目を開けたら、春樹が私を庇って刀の鞘で私への一撃を防御してくれていた。
でも、不意打ちの為だったからか、春樹は右肩を負傷していた。
「ごめん、春樹!」
本来ならここで私は春樹と一緒にここで、モルモーと戦うべきなのかもしれない。
でも真犯人が騒ぎに乗じて桜庭 優の殺害を図っているのだとしたら…。
やはりそれを放っておくなんて、出来ない。
なので私は春樹を信じて現状を放棄して廊下に出た。
全員がパニックになっていた為か、やはり廊下にも人影はない。
「これはやっかいね。」
思わず私は自分の迂闊さに、頭をかかえた。
だって、全員がそのままバラバラになって、屋外にまで退避していたら手の打ちようがないもの。
焦った私は出口と逆方向の楽屋を放棄して、待合室を覗いた。
が、やはり救護室の隣である待合室に全員が退避しているはずはない。
とすれば、いつでも逃げ出せる最も出口に近い場所。
そして広くて全体を容易に見渡せる場所。
そう、撮影フォトスタジオに違いない!
そう確信して走り出した。
「ふん、やはりな。
新田 新、モルモーよ。
お前は素早い動きで敵を翻弄するのには長じているかもしれん。
だが、動きが単調すぎて容易に先読みが出来る。
そんな体たらくで本気で俺に勝つ気か?」
後で聞いた話だけど、春樹は一切抜刀しなかったみたい。
春樹はモルモーの攻撃を全て紙一重で見切り、ステップを踏みつつ一撃を狙っていた。
でもそれがモルモーの焦りと怒りをかっていたらしい。
春樹ったら、手加減とか知らないからなぁ。
「くっそぉぉ!
くっそぉくっそぉくっそぉぉ!」
そして我を忘れてモルモーは捨て身の渾身の一撃を春樹にお見舞いすべく、急降下してきた。
が、春樹はすでにモルモーの動きを完全に見切っていたので軽くその一撃をかわしつつ、柄の部分を使用してカウンターを決めた。
もぅ帰り際、そんな自慢話を延々と聞かされた私の身にもなってよね?
見事な春樹の返し技を決められたモルモーは、そのまま新田 新くんの姿に戻って意識を失った。
「ふぅ。
これじゃあ準備運動にもならんな!」
はいはい、そうでしょうね。
って、この時の私はそれどころじゃなかったのよ!
「皆さん、全員いますか?」
息も絶え絶えになりながらも、撮影スタジオの扉を開けた先に皆がいたので、私は安堵のため息を吐いたんだけど…。
ひぃふぅみぃ…。
えっ?
いないじゃない!
私は思わず早急に話のわかる撮影カメラマンの須藤兄妹のもとへ駆け寄った。
「桜庭 優さん、どこですか?」
すると、私の慌てように純さんも愛さんも互いの目を見合わせてキョトンとした。
ふと見るとsprintersのメンバー、香山 良治さんが私に何か言おうとしてたの。
だけど、そんな彼をリーダーの長田 裕仁さんが首を振りながら手で制してくれた。
あぁ、助かるわぁ。
今は事件の詳細なんか話している場合じゃないもの。
「ちょっと、これはどういう事なんだ!
わしにもわかる様、ちゃんと説明せんか。
だいたい、お前達は…。」
と社長が私に食ってかかってきたんだけど、私は一睨みで社長を黙殺した。
危うく顕身してしまいそうになったけど、私は紙一重で踏みとどまった。
恐らくその時の私ってば、相当動揺していたのもあったし焦燥感もあった。
だから多分、鬼気迫る恫喝さながらの睨みをしちゃったんだろうなぁ…。
ま、いいんだけどね?
一瞬の沈黙の後、純さんが私の質問に答えてくれた。
「桜庭 優さんなら、マネージャーの八神 咲子さんの同伴で楽屋へ忘れ物を取りにいきましたよ?
まぁ、あんな事件があった事だし同伴してほしい気持ちはわかりますしね。
もう1人の刑事さんがいないという事は、あの男性の刑事さんは新さんの取り調べをしているか、戦闘を続行されてらっしゃるのだろうし。」
しまったぁぁ!
やっぱあの時に楽屋から先に調べるべきだったのよ、私の馬鹿ぁ。
非常に申し訳ないんだけど。
私は純さんとの会話を振り切り、慌てて踵を返して走った。
「お願い、どうか無事でいて!」
あんな許せない女の敵ではあるけれど、だからといって惨殺されなければならない程の大悪人でもないんだろうし。
ましてや、私のせいで彼が死んだとなったら相当寝覚めが悪い!
で、慌てて廊下に出た所で私は春樹とばったり出くわした。
「アホぅが、どうやらしてやられたようだな。
この状況で推察すれば、俺達にとって楽屋は一番の盲点となるだろう。
ならば、待合室や撮影スタジオよりもまず疑うべきは楽屋だと思わなかったのか?」
るっっさいわね!
確かに状況は春樹の言うとおりなんだけど、今は春樹のお説教を聞いている時じゃないでしょ?
と、私は明らかに殺気だった目で春樹を睨みつけたんだけど…。
予想に反して春樹は優しく笑った。
「ともかく急げ!
俺は右肩を負傷した傷口を応急手当してから行くから。」
なんだか調子狂っちゃうなぁ。
とか思いつつも、私は全速力で楽屋へと向かった。
私はその気になれば、チーター並の速度で走れるんだけどね。
でも、この細い廊下でそんな全速力を出したら壁に激突しちゃうもの。
なので出来うる範囲で全速力を出した。
「桜庭さん、無事?」
私は閉じられた楽屋の扉を体当たりでぶち破ると、大声で生存確認を行った。
が、残念ながら私の全速力は徒労に終わった。
「案外遅かったじゃない?
まぁ、ドジな女刑事さんじゃ当然って所かしら?」
うぅっ、一歩遅かったぁ。
マネージャーの八神 咲子さんはまるで鶏の首でも撥ねたかのように桜庭 優さんの首を撥ね、その首をまるでディスプレーのように社長の机に飾っていた。
首を撥ねられた桜庭 優さんの首からは大量の血が吹き出し、それを八神 咲子さんは美味しそうに歓喜しながらゴクゴクと豪快に音を鳴らして口を鮮血で真っ赤に染めて飲んでいたのだ。
その、あまりにも凄絶な光景に同じ吸血鬼ながら、私は思わず吐き気さえ覚えた。




