第三章<立証>
私はやっと全員を説得して救護室まで皆を集めた。
で、春樹はというと…。
やっぱりしかめっ面をしていた。
春樹って本当にせっかちな性格なんだものねぇ。
が、そのまま私につっかかってくるかと思いきや姿勢を正して周囲を見渡した。
「これで全員のようですね。
今まで大変ご迷惑をおかけ致しました。
しかしご安心ください、犯人もわかりました。
これより私の推論をお話致します。」
ふぅ、やっと聞けるのね春樹の推理を。
春樹の事だから、ここで現行犯逮捕まで持って行くんでしょうね。
「まず、撮影スタジオで起きた事件。
様々な現場検証や事情聴取によって、犯人が使用したトリックと犯行までが詳細に割れました。
中里 瞬さんが吸血された状況、そしてその当時の皆さんの位置関係。
それらを鑑みて浮上してきた犯人。
まず社長である、須貝 幸司氏は犯人から除外。
撮影セットの舞台にいた、長田 裕仁さんと香山 良治さんも除外。
さらに撮影をしていた須藤 純さんと愛さん。
そしてその真横にいた八神 咲子さんも除外。
残るは桜庭 優さんだけとなるのですが…。」
と春樹が話を続けようとした時、桜庭 優が噛みついてきた。
「おいおい、ちょっと待てよ!
まさか犯人は俺だって言うのか?
冗談じゃねぇ、俺はあの時は皆が騒ぐまで椅子で寝ていたんだぜ?
それによぉ…。」
と話を続けようとしていた桜庭 優を、春樹は手で制した。
「勿論、犯人は桜庭 優さんでもありません。
先程貴方は眠っていた、と仰いましたが実はそうではありません。
現場検証のおり、貴方の椅子の前方が少し濡れていました。
恐らく貴方は誰かに差し入れをされたのではありませんか?
そう、独特の甘い香りから察するにスポーツドリンクなどをね。」
それを聞いた桜庭 優は驚いた表情をした。
「あぁ、そういや確かに俺はサブマネの新からジュースを差し入れして貰ったよ。」
桜庭 優の発言に春樹は我が意を得たり!という顔で話を続けた。
「やはり、ね。
確信から先に言うが…。」
と春樹はちらっと新くんを見たんだけど肝心の新くんといえば、さっきより酷い咳をしている。
「まぁ、いい。
トリックから先に解き明かしていきましょう。
犯人は犯行を実行した後、それが明るみにでるまでの僅かな時間の間、巧妙に照明を使って隠れていたのです。
よくマジックでも使用されるトリックですが、照明というものは強い光によって背後の物体を消してしまうという効果があります。
夜間、車が対向車と交差する時に同じ方向から全く同じ角度でライトを照射すると、その間にいる歩行者の姿が黙認出来なくなるといった事故まであります。
犯人はそれをうまく利用して、今回のトリックを作り出したのです。
そう、犯人である新田 新さんがね!」
とここで春樹は犯人を名指しして、周囲から大きなどよめきが起きた。
「待って下さい!
ごほんごほっ。
僕は確かに撮影スタジオへ戻ると言っていましたが、その前に八神 咲子さんに言われていた用事を思い出して待合室で作業をしていましたよ?
騒ぎをききつけて、駆け付けるまでは。」
と新くんは八神 咲子さんに目で助け舟を求めると、軽く溜め息をついた彼女は発言した。
「えぇ。
確かにわたしは戻ってくるついでに、待合室に保管してある衣装の整理をいいつけていました。
でも、だからといってそれがアリバイの立証になるかと言えば、ならないわよね?」
うわぁ、やっぱ八神 咲子さんってクールだぁ。
なんか怖いな、この人。
「恐らく、桜庭 優さんに軽度の睡眠薬入りジュースを指し入れしたのも新さんでしょう。」
というと、桜庭 優も大きく頷いた。
「君は俺達を楽屋まで案内すると、撮影スタジオへ戻ると言っていた。
先程、君が言ったように、途中で待合室へも立ち寄ってはいるでしょう。
普段、のろい演技をしているが、実は迅速に用事を片づけてね。
そして、君は事件が起こるよりも遙か前に撮影スタジオへ戻った。
俺達が楽屋へ入っていったのを確認した後に廊下の明かりを切って、撮影スタジオに光が漏れないようにしてこっそりとね。
そして照明の後ろを伏せながら前進して移動し、中里 瞬の背後まで近付く。
念のためにハンカチ…と言いたいがそれでは証拠が残る為、恐らくはトイレで流せるティッシュペーパーにあらかじめクロロホルムを染み込ませておいて。
中里 瞬さんを吸血しようとした時、君が予想だにしない事態が起こった。
そのアクシデントをうまく誤魔化して吸血してから、君は元来た照明の後ろを移動して漆黒の遮光カーテンで扉を隠しつつ、再度廊下の明かりをつけた。
後は簡単だ。
照明の一つを少しづつ中里 瞬さんに向けて、周囲に異変を気付かせる。
当然、それにいち早く気付いた撮影舞台にいる二人が大騒ぎをする。
当然、その後に撮影カメラマンの兄妹もマネージャーの八神 咲子さんも異変に気付く。
恐らく廊下で俺達が悲鳴を聞いたのは須藤 愛さんの絶叫なのだろう。
俺達が廊下から走ってきているのを感じた君は、急いで照明をおとした。
そして遮光カーテンにくるまって俺達をやりすごした後、何食わぬ顔で事件の傍観者として参加した。
だが…、君は致命的なミスを吸血の際に犯している!」




