第三章<立証2>
とここで、春樹は咳払いをした。
「というより、吸血の際に君が予想だにしなかったアクシデントによる致命的なミス以外にも、あらゆるものにおいて君の行動は穴だらけと言わざるを得ない。
まずはアリバイ作り。
本当に待合室にいたという事でアリバイを作るつもりだったのなら、何故俺達に撮影スタジオへ戻るなどと自供したのか?」
と春樹は、その謎を新くんに返答して貰おうと目で合図をした。
「うっ。
ごほっ、ごほん。
確かに、そうですね。
そうかぁ、そう言えば僕は疑われる事もなかったんだぁ。
なるほどぉ、そうですね。」
ガクッ。
なんなのよ、それ。
春樹も、あまりにも素っ頓狂な返答に頭が痛いらしくて、眉をしかめながら頭に手を添えている。
「いや、質問しているのは俺なんだが…。
まぁ、いい。
話を続けましょう。
次に桜庭 優に睡眠薬入りのジュースを差し入れして眠らせた件。
中里 瞬にクロロホルムを使用して眠らせたのは間違いないでしょう。
ただ、それは俺がたまたまクロロホルムの匂いに敏感に反応したからであって、もし俺達が匂いに気付かなかったならば、自然、次に目が行くのは睡眠薬入りのジュースの空き缶ではないか?
まぁ、恐らくは騒ぎのどさくさにまぎれて隠滅はされたのだが。
しかし桜庭 優が眠りに入る際に、前の椅子にこぼして匂いまでついてしまっている。
これを調べれば当然、成分の抽出によって睡眠薬入りという事が詳細にわかる事となるでしょう。
とすれば、誰がそれを差し入れしたかもわかるというもの。
無論、それだけでは新さんを犯人と立証するのは無理ではあるが。
しかし、犯人が新さんなのであれば自らの立場を危うくする事となる。」
と春樹が力説しているのに対して、新くんってば焦る様子を見せるどころか真摯に聞き耳をたてているのよ。
なんだかなぁ。
凄く調子が狂うっていうか、やっぱり新くんが犯人って説まで疑わしく思えてきちゃう。
「やっぱり刑事さんって…。
あの、その…。
ごほっ、ごほんごほん。」
ん?
何なに?
新くんは何を言おうとしているのかしら?
私達だけでなく、救護室に集まった全員が固唾を飲んだ。
「その、凄いです…ね。」
ガターン!
思わず、その場にいた全員が1人あまさずのけぞった。
「刑事さん、やはり新くんに犯行とかトリックとか無理な気がするんですが。」
最初に言ったのはリーダーの長田 裕仁さん。
「だな。
新っちに、んな高尚な犯行なんて無理だって!」
次いで、香山 良治さんも手を横に振って春樹の新くん犯人説を否定した。
「はぁ。
そこの女だけでなく、あんたまで馬鹿だったとはな。
見損なったぞ、このごくつぶしめが!」
このおっさん[芸能プロダクション社長の須貝 幸司氏だけどね?]本当に腹立つなぁ。
「あんだよ、期待はずれじゃねぇか!」
さらには桜庭 優も呆れ顔で嘯いた。
今まで応援してくれた撮影カメラマンの須藤兄妹も、さらにはマネージャーの八神 咲子さんまでもが揃って首を横に振った。
ちょっとちょっとぉ、本当に大丈夫なのぅ?
まぁ春樹の事だから、ちゃんと立証出来る証拠とかも掴んではいると思うんだけど…。
でもねぇ。
春樹には悪いんだけど、私も本当は新くん犯人説には疑問があるのよ。
まずトリックだけど、新くんが犯人だったとして。
彼のような人物にしては、よく出来たトリックじゃないかと思うの。
だって新くんが考えられそうなトリックとは思えないもの。
どんくさくて、真面目で、でも牛歩のように遅く、する事なす事ドジばっかり。
って、なんか自分の事を言っているみたいで欝になりそう。
どんくさいのも演技とか春樹は言ったけど、どうにも新くんが演技をしているようには見受けられないのよねぇ。
うーん、春樹。
この後、どう挽回するのよ?
と、心配そうに私は春樹を見つめたんだけど、どうやらそれは杞憂のようだった。
春樹には全く動揺しているような素振りもなければ、焦燥感も感じられない。
そう。
いつもの自信に満ち溢れている瞳。
動揺するどころか、むしろ輝いてさえいるように見える。
「とりあえず話がそれましたが、新さんが犯人であるという決定的な証拠もお教えしましょう。
そう、ずばり中里 瞬さんを吸血する際に起こったアクシデント!
そして犯人が残した致命的なミスを。」
うん、そこよね。
それがはっきりしているなら、皆の疑念も取り払えるはずよ。
「これを見て下さい。」
といって、春樹は中里 瞬くんがつけていたネックレスを中里 瞬くんの首からはずして全員に見せてまわった。
「このネックレス、奇妙だとは思いませんか?」
あっ!
本当だ、私にもその奇妙な部分がわかる。
「確かに奇妙ですね。
ネックレスの繋ぎである鉄製のフックの代わりに、輪ゴムが代用されている。」
いち早く気付いた、撮影カメラマンの須藤 純さんが発言した。
「そう、ネックレスの素材を見てもわかる通り、本来なら鉄製のフックがついていなければならない所だというのに輪ゴムが代用されているのです。」
が、それに対して桜庭 優が反論した。
「ちょっと待てよ、刑事さん。
確かに奇妙っちゃあそうだが、でもそのネックレスは瞬のお気に入りだったはず。
だったらよぉ、繋ぎのフックが壊れたからって瞬本人が輪ゴムで直したって可能性もあるはずだぜ?
それがそんなピックアップされる程の事かよ?」
うーん。
悔しいけど、確かに桜庭 優が言っている事もわかるのよねぇ。
でも春樹の瞳は全く曇ってはいなかった。
「いや、断じてそれはない。
何故なら、俺が初めて中里 瞬さんと会話した時。
背中を向けた事があったが、その際にはネックレスは確かに鉄製のフックが光っていた。
それが証拠に、このネックレスのフックは俺の手の中にある。」
と春樹はスラックスのポケットの中から鉄製のフックを取り出した。
「そう言えば撮影の時に一度、中里 瞬さんがネックレスを外した所を見たんです。
その時には間違いなく輪ゴムで止める仕草はしてませんでしたよ?
輪ゴムでネックレスを止めるのなら、フックのようには簡単にはいかないのでわかると思うんです。」
と今度は妹の須藤 愛さんが力説した。




