第一章<徹頭徹尾なるニヒル>
川島宅…
そう、アブジーの上層部に直に依頼を要請したファイバー製薬社長の自宅…
玄関で私達を迎えてくれたのは、若くて美しいメイドさん達。
玄関の先は吹き抜けのロビーになっていて、そこから2階へと向かう螺旋階段がある。
さらに2階の天井から吊るされているのは、まるで本当にベルサイユ宮殿にありそうな荘厳華麗なシャンデリア。
中に入った私達は、まるで歌劇場にでも来たような錯覚を覚えた。
本当に映画のロケに使われてもおかしくないような外観に似つかわしい洋館内部である。
「あの…、刑事さん達?」
はっ!
あまりにも乙女心をくすぐる中世な洋館に感激していた私は、完全に心酔して浸っていた為、不意にかけられた家人の声で、一気に現実世界へと引き戻された。
「あら、嫌ですわ私とした事が。
どうか致しまして?」
などと、思わず雰囲気に従って不思議な言葉使いをしたら、春樹から刺すような冷たい視線と厳しい一言を賜った。
「あぁ。
こいつは俺の付録みたいなもんなんで、どうかお構いなく。
ちょっと浮世離れしていて頭のネジがずれているんですよ。
まともに相手をする程の奴じゃないんで。」
怒ってる怒ってる。
にしても…、しっつれいしちゃうわね!
そんな説明じゃまるで私が精神的破綻者みたいじゃないの。
と、私達のやり取りを見比べていたメイドさんが、仕切り直しとばかりに再度お辞儀をした。
「じゃあ、もう
さ一度御挨拶をさせて頂きますね。
私はここの洋館のメイド達を束ねている、中津 久美と申します。
御主人、川島 高次はお二人を応接間にお通ししてとの命を承っていますので、今からご案内をさせて頂きますね。」
メイドって時代錯誤な上、なんとも金持ちが好みそうな趣味よねぇ。
まぁ、実質は家政婦みたいなものでしょうけどね。
でも、久美さんって清楚で素直そうで従順って雰囲気だから、メイドという仕事をされていて不思議と違和感をおぼえる事はなかった。
まぁ、肩まで伸びた髪とカチューシャが愛らしい容姿と相まって、女性の私から見ても素敵って思っちゃうもの。
久美さんの案内に従ってロビーを進むと、玄関先で見えていた螺旋階段ががあり、ふと気付くと2階からは久美さんとは全く違う…ううん、ジャンル?趣?…ええと。
そう、対極!というくらい真逆な妖艶という言葉がぴったりの男性が喜びそうな肉体美を誇る、久美さんと同じ服装の[まぁ、同じメイドなら当然同じユニフォームよね]美女が、こちらを興味深く見つめているのが見えた。
先に久美さんを見てメイドという職業を認識してしまっているからか、2階の螺旋階段から現れた美女が不思議な存在に思えてしまったの。
なので私は小声で春樹に耳打ちしてみる事にした。
「春樹、なんか同じメイドさんでも久美さんとは全く違うタイプよね。
あぁいう美女って春樹のタイプ?」
すると春樹は深い溜め息とともに、いつもの怒鳴り声と違って皮肉たっぷりに自慢?のニヒリストぶりを発揮した。
「ま、少なくともお前よりは遙かに魅惑的な女性だな。
お前も女なら、少しは見習ったらどうだ?
いつまでもスレンダーで誤魔化しきれるもんでもないだろ?
あぁスレンダーがわからないんじゃ皮肉にもならんな。
貧粗な肉体美とでも言っておこうか。」
カッチーン!
それって私が気にしてる胸が小さいって事を言いたいのね。
だってそれはしょうがないじゃない!
私ってば吸血鬼なんだし16歳で体の成長が止まってるんだもの。
っとに可愛くない。
「まぁ私は肉体美よりも、この可愛い顔が自慢なんだもの。」
と言ってやろうと思ったのに、またしても春樹は先を越して無礼な事を言った。
「まぁ顔は絶望的なんだから、せめて肉体美くらいはどうにか出来るだろ?」
…。
ええい、この怒りをどうしてくれよう!
っとに腹立つなぁ。
「陽子さん…。
今日はお出掛けではなかったのですか?」
久美さんの問いに、2階の美女はなんとも艶やかな笑みをこぼし、その問いには答えずに質問を質問で返してきた。
「あら、お客様かしら?
なかなか私好みの男を連れてらっしゃるじゃない。
あたし三村 陽子と言いますの、よろしくね。」
2階から見下ろしていた美女は聞いてもいない自己紹介を一方的にすると、螺旋階段を降りて春樹の顎を指で持ち上げ、春樹を挑発した。
が、春樹はそれをそっけなく振り払い、まるで何事もなかったかのようにつれない態度で接した。
「あら。
なかなかに手強い反応をするのね、つまんない男。」
すると春樹はすかさず、相手が妖艶な美女であろうとお構いなしの冷たく鋭い視線で返した。
「あぁ、失敬。
失礼ながら、俺は昔から娼婦のような見た目の下品な女には拒絶反応を持つ体質なんでね。
それに貴女からは下衆な香水の匂いがする。
楽しいですか?
そんな男に媚を売るような道化を演じて。」
あっちゃぁ~っ!
春樹の言葉に、さっきまで艶やかな笑みを浮かべていたメイドさん…、陽子さんは忽ち鬼のような形相で春樹を睨みつけると、洋館中にまで響き渡るかのような大きな音をする平手打ちを春樹に浴びせて、とっとと奥の間に去っていっちゃった。
「あの、ごめんなさい。」
何故か久美さんが慌てて謝り、それにこたえるように春樹が呟いた。
「だから失礼といったんだがなぁ…。」




