第一章<洋館への招待>
「おおかた警察署内のお偉方と社長の間に、なんらかの繋がり[コネクションというより賄賂?]があったりって事じゃないのか?
社長曰く、親愛なるアブジーの皆さまへ。
日頃はアブジーの皆さまの活躍によって市民は安寧を迎えられております。
いきなり本題を申しますと、わたくしは最近、空からのストーカーなる被害に悩まされております。
ついては日頃、お忙しい激務をこなされているアブジーの皆さま。
わたくしをガードするお仕事を依頼させて頂きます。
あまりある勤務時間を有用にお使い下さいませ。
無事解決致しました暁には、またお礼に伺いたいと思っています。
だと!
っていうか、俺に絡んでくんな!」
まったく。
こういうのを慇懃無礼っていうのかしら?
だいたいお礼を致しますじゃなくって伺いますでも、言いたい事は一緒でしょうが!
春樹も普段は饒舌なんだから、こういう時に役に立って欲しいものよね。
と、私は春樹にちらっと横目で視線を投げかけた。
しかし春樹の攻撃を待つまでもなく、ほどなくしてパトカーは社長宅に到着した。
社長宅…
近代化し殆ど全てを機械化した最近の建築物とは対照に、まるで鹿鳴館のような迎賓館を住まいとして改良した洋館に、私と春樹は圧倒された。
「わぁ、なんて素敵な建物かしらぁ。
舞踏会とか開催されたら、まるでベルばらの世界よねぇ。」
などと私が乙女チックな発言をしたのに、春樹は深い深い溜め息を吐いて冷たい視線を送ってきたかと思えば、やれやれ。と首を横に振った。
「ベルばらって歴史で習ったあの旧時代の漫画だよな?
お前いつから生きてるんだよ。」
春樹ったらわかってないわ。
「どんな時代のものでも名作って語り継がれるものじゃない?」
と反論したけど、春樹は興味なさげだったので、私もそれ以上は何も言わない事にした。
「しかし…、随分と時代に逆行した洋館だな。
こういう建築に拘る奴は、頭が固くて柔軟な発想が出来ない年寄りが多い。
こいつはどうやら、やっかいな仕事になりそうだ。」
はぁ。
この洋館の外観を一目見ただけで、よくそんなひねた見方が出来るものよねぇ。
と春樹を見ていたら、春樹は私の首根っこを掴んで強制的に自分から視線をそらせた。
「そんなに物欲しそうな顔で見つめるな。」
なぁんですってぇ?
と思ったけど春樹は確かに目の保養にはなる。
「良いじゃないの、減るもんじゃなし!」
といってやったら即答してきた。
「いや、減る!
というか、お前の場合は吸血の感染はないが、見つめられるとバカの感染があるかもしれん。」
むっかぁ!
春樹…、いつか殺す!
「で?
なんか言いたい事があるんだろ。
まさか本当に見惚れていた訳でもあるまい?
ただでさえお前は挙動不審なんだから、これ以上挙動不審な態度をとって俺を困らせるな。」
むぅぅ、本当の本当に春樹は可愛いくない!
「どうして洋館の外観を見ただけで、そんな決めつけるような事が言えるのよ。」
私の発言に、春樹は吐き捨てるように言って、それがまた私の気分を害させた。
「刑事のくせにプロファイリングも知らんバカにつける薬はないな。
第一、あんな文面を書いた奴に好印象なんぞ持てるか?」
むぅぅ…、それは確かに。
「ぼさっとしてないで中に入るぞ。」
にしても失礼ね。
プロファイリングくらい私だって知ってるわよ!
と言い返してやりたかったが、春樹は私に構わずさっさと呼び鈴を押して玄関へと入っていったので、私も慌てて後を追った。
「ちょっと待ってよぉ。」
この洋館が殺人事件の舞台となるとも、その時は知らずに…。




