第一章<短気な王子様>
だから私は黙って帰宅途中にある自動販売機に100円玉を入れ、缶ジュース…。
じゃない人工血液缶のプルを引っ張って、プシュッ!と開けた。
ゴクッ。
あぁうまい!
私は思わずプハ~っ!と漏らすと、、春樹は呆れ顔で冷たく言った。
「おやじか。
だから太るんだよ、お前。」
カッチーン!
あったまきたぁ。
「しっつれいね!
私は吸血鬼なんだから血液の取り過ぎで太ったりなんかしないわよ。
人間と一緒にしないでくれない?」
すると、春樹はさらに頭に血が登るような発言をして、私の顔を真っ赤にさせた。
「そうだよな、お前はやっぱり人間と違って化け物なんだよな。
すっかり忘れてたよ。
おまけにバカだし。
なぁ。
吸血鬼が皆、お前みたいなおバカばっかなら世界はとっくに滅びてるよな。」
怒り心頭に達した私は、そこから一切口も聞かないまま、リモコンでタクシーを呼びつけて帰宅する事にした。
明後日…
当然と言うべきか、私は朝を放棄して昼寝に突入し、ふて寝を決め込んでいた。
だってさぁ。
私ってば、仮にも吸血鬼な訳じゃない?
まぁ本家の吸血鬼の方々と違って、私は例え夏のように照りつける日中の太陽の下でも普通に活動出来たりするんだけど。
因みに本家では夜にしか活動出来ない為、24時間制の会社に勤務しているか[コンビニとかね]、自由に出勤時間が設定出来る仕事、タイムフレックス制の会社で仕事をしたりしているの。
そんな訳で、私の家系では寿命がある代わりに優遇されてる面もあるのかな?
でも日中と夜とでは、やっぱ夜の方が力が湧いてくるし、本領発揮も出来るのよ。
という事で、非番の時はイトリで購入した簡易型棺桶ベッドで快眠を貪っていた。
しかしそんな私のささやかな休養は、いきなり容赦なく鳴り響く一本の電話で破られた!
当然、叩き起こされた寝起きの私としては不愉快極まりない。
「もしもし?」
と私は極めてそっけなく粗暴な電話の対応をした。
私の睡眠の邪魔をする奴なんて、決まって実家からか春樹あたりと相場は決まっているからだ。
「とっとと起きろ!
一人で起きられないなら、今からお前のマンションまで王子様の目覚めの往復ビンタで叩き起こしに行ってやろうか?」
ほら、ね?
やっぱり春樹だった。
それにしても他に言いようがないのかしら。
多分、春樹だけは絶世の美女が相手でも私と同じ対応をするんだろうなぁ。
だからイケメンなのに春樹の性格を知ったら皆、敬遠するのよ。
しかも春樹は冗談を言わない性質なので、本当にやりそうで怖い。
どうせなら、その甘いマスクに似合う起こし方をしてくれたらどんなにか…。
ない!
絶対にない!
あの春樹に限っては絶対にない!
まぁ嘆いたってそれが春樹なんだからしょうがない。
「王子様なら、そんな物騒な起こし方なんてしないわよ?
優しく抱き起こして甘ぁいキスが王道でしょ?」
と私が言うと、春樹は予想通り溜め息と同時に深い深呼吸をはじめた。
さて、受話器を今のうちに離しておかないと、えらい目にあうのよね。
と警戒したのだが、帰ってきた言葉は私の予想外の言葉だった。
「だったら優しくお姫様だっこで抱き起こしてやろうか?」
きゃ~っ!
なんて魅惑的な誘惑かしらって胸をときめかせて油断した瞬間、次の言葉はやっぱり春樹だった。
「こぉぉのドアホぅ!
グダグダ言ってないでとっとと来い!
殺すぞ、アホぅが!!」
はぁ~っ。
春樹は間違いなく一生涯独身確定ね。
と言いながらも私は矢継ぎ早に着替えを済ませて署に向かった。
署に到着すると、春樹は待ち構えていたように居丈高に腕を組んで不機嫌な顔をしていた。
「遅い!
刑事舐めてんのかお前は。
説明は後でするから、とっととパトカーに乗れ!」
車上の人となった私と春樹を乗せた無人パトカーは、ゆっくりと走りはじめた。
まったく。
到着早々これよ?
こっちは非番だってのに本当に労いの言葉すらないんだから…。
とぶぅたれていると、エスパー春樹は即座に私の心の声を読み取ったのか、黙って私の頭に軽い拳骨を入れてきた。
「今から向かうのはファイバー製薬の社長宅だ。
社長は一週間前からストーカー被害を受けているらしい。
しかも…、空からな。」
成る程、だから私達アブジーにお呼びがかかったって事ね。
「で、殺されかけたり誘拐されかかったりって実際に被害を受けた経歴は?」
というと、春樹はぶっきらぼうに報告書類を私の胸の前に差し出した。
つまりこれから先は自分で目を通せって言いたい訳なのね?
まったく…。
春樹はもう少し親切にするって事を学ぶべきだわ。
と本人に言っても100倍くらいに跳ね返ってきそうなので、言わないけどね。
「どうやらストーキングされているだけで実害はないみたいね。
でも事件性がないなら、私達の出番なんてないんじゃない?
特に憂慮すべき事態とも思えないんだけど?」
私は事件性もないのに非番の所を呼び出されたの?という忸怩たる思いもあった為、殊更拗ねた物言いで春樹につっかかった。




