第二章<覚悟>
そんな俺の態度に美夜は驚愕した。
「あなた、本当にその刀を振るう気?
あたしが言ったから意地になっているのかもしれないけど、そんな理由ならおよしなさい。
嘘でも出鱈目でも冗談でもなく、一振りするだけで容赦なく刀は貴方の2年もの寿命を奪うのよ?
あたし達と違って短い命の、ただの人間にとって2年の寿命がいかに貴重なのかぐらい、あたしでもわかる。
どうかしら、一つ提案があるんだけど。
その刀を振わずともナリソコナイを倒せる、もう一つの選択をしてみない?」
なんだと?
この刀を使わずして俺に奴を倒す方法があるなら早く言え!
「で、そのもう一つの選択とは?」
すると美夜はぺろっと舌を出して妖艶な笑みをみせた。
「簡単よ。
貴方があたしのものになればいいのよ。
そう、貴方の血をあたしに頂戴。
そうすれば貴方はあたしの下僕となって、あたしには及ばないかもしれないけど同じ力を手にする事が出来るわ。
血の契約と、その力を引き換えに貴方はあたしの所有物になるの。
どう?
そうすればあたしと一緒に長い時間を生きる事が出来る。
美しい今のままで、老いさらばえる事もなくね。」
アホぅが。
俺はまともに反論するのも馬鹿らしくなった。
「ふっ、あははははは。
はっはははは!
今更何を言うかと思えば笑止な事を。
有り得んな、そんな提案を受理する俺など有り得んよ。
美夜。
貴様は花壇に咲く華麗で懸命に咲く花より、ドライフラワーの方が美しく見えた経験があるのか?
命は短い。
だからこそ何者にも代え難く美しいのだ。
花もまた、散るからこそ懸命に生きて美しい花を咲かせる。
造花やドライフラワーがどれ程頑張っても、その美しさには到底届く事はない。
人もまた同じだ。
やがて死するからこそ、懸命に生きて、その生き様は歴史に名を残すのだ。
限りある命を懸命に生きる人間を、俺は誇りと思っている。
が、だからといって俺は殊更、お前達のような吸血鬼を否定しようとは思わない。
それは鳴海警部とも固く誓いをたてた事だしな。
だが、あくまでもそれは犯罪を犯さない真っ当に生きる吸血鬼に限っての事。
で、まだ俺に何か言いたい事はあるのか?」
俺の熱弁に、美夜は黙って首を横に振った。
「じゃあ見せてよ。
貴方の言う、人間としての尊厳と誇りを。」
言われるまでもない。
俺は斬妖剣[紅蓮]を完全に鞘から抜刀した。
光?
そう、刀は抜刀した瞬間、眩いばかりの煌めきを発したのだ。
だがよく見ると、実際には刀は光っているのではなく燃えていたのだ。
「なんだ?
俺の体から物凄い倦怠感が…。」
俺は刀を握った瞬間に感じた異常に耐えられるか不安にすらなった。
「辛いでしょ、苦しいでしょ?
その刀身から発している超高熱の炎は、いわば貴方の命の炎。
斬妖剣[紅蓮]は、あたし達のような妖火を力に変換させて使用するのが本来の目的だったの。
でも実際に使用した先代の長老は、その刀に力を殆ど吸われてしまい、200年しか生きる事が出来なかったのよ。
ましてや貴方はただの人間。
妖火に代わる代償として命の火が吸い取られる。」
ふん、成る程。
この刀を振るうという事は、それだけの覚悟が求められるという事か。
「よし。
ならばこの妖刀、俺が必ず使いこなしてみせる!」




