第二章<痛恨>
美夜の属性は火。
そして鳴海警部の属性は風か。
「ぎゃあぁぁぁ。
お、おのれぇ!
この裏切り者ぉぉ!!」
断末魔…、というやつか。
アルラウネは鳴海警部の作り出した大旋風によって、忽ちその五体を引き裂かれていった。
そして、辺り一面を血飛沫とともに真紅に染めて、哀れな感染者の肢体の肉片だけが散乱していた。
「哀れ…、だな。」
俺がそう呟くと、鳴海警部も頷いた。
「あぁ、住谷 薫さんには詫びる言葉も見つからない。
だが…。」
鳴海警部が言葉を続けようとしていたのを俺が手で制止した。
「言いっこなしですよ、鳴海警部。
ここで奴を始末しなければ、より多くの被害を出し、もっと犠牲者は増えていたでしょうから。」
すると鳴海警部は軽く瞳を閉じて一笑した。
「そうだな。」
勝って兜の緒を締めろ。
とは武田信玄の名台詞だったろうか?
俺達はこの時、完全に油断していたのだ。
そう。
アルラウネに顕身したものの、奴の本体は元々はスライム状のジェル物体であった事を完全に忘れていたのだ。
散乱していた肢体の欠片の一部が不意にもぞもぞと動き出すと、奴はその先端を剣のような形態に変化させて俺目掛けて襲ってきた。
「うぐっ!」
「な、鳴海警部ぅーっ!」
奴が不意に俺に向かって襲ってきたのをいち早く気付いた鳴海警部は、とっさに俺を庇ってその背中を盾としてくれた。
鳴海警部の背中からは、とめどない鮮血が飛び散る。
「良かった。
藤田くんを守れたのは幸いだ。」
致命傷を受けたにもかかわらず、鳴海警部はにっこり微笑んだ。
なにが、何が幸いなものか…。
俺はとんだアホぅだ!
何が期待の敏腕刑事だ…。
俺は、俺は底なしのアホぅだ!
だが、今は悔恨に浸っている時間などない。
すぐさま俺は奴を鳴海警部の背中から引き抜いて壁に投げつけると、鳴海警部は力なく俺に倒れこんできた。
「馬鹿よ。
人間の為に迷いなく命を投げ出す吸血鬼なんて…。
鳴海さん…。
貴方は本当に愚かだわ。
でも、貴方が力強く言った言葉は本心だったのね。
そして自らの命まで投げ出して貴方はそれを実践してみせた。」
美夜。
それが鳴海警部なんだ!
鳴海警部の正義なんだよ。
「藤田くん。
俺の油断で君を危険な目にあわせてしまった。
でも、君なら出来る!
君ならわかってくれるだろう?
吸血鬼と…、人間との明る…い…未来…を。」
なんでだ。
序々に体が砂と化していくこの悲壮な状況で…。
なんで笑っていられるんだよぉぉ!
「鳴海警部ぅ!」
不思議だ。
俺は生まれてこの方、一度も涙など流した事がなかったのに…。
なのに、拭けども拭けども後から後からあふれでるこの慟哭はなんなんだ!
「鳴…海…警…部…。」
ふと見上げると、信じ難い事に美夜も憂悶の表情を浮かべていた。




