第二章<胎動>
「ならば、もうすぐ夜になる。
丁度都合も良いし、このまま捜査に協力して貰うぞ。」
と意見を促しているにもかかわらず、美夜はまたも黙秘権を行使してきた。
こうまでくると、だんだん俺の苛立ちも最高潮に達してくる。
「だんまりでも構わんが、ならば反論は許さんからそう思え、アホぅが!」
と俺が啖呵をきると、ようやく重い口を開いた。
「鳴海さん。
あたしは藤田 春樹くんとは別行動でもいい?」
すると鳴海警部は軽い溜め息を吐いた。
「君達の相性が対極なのはわかる。
でもナリソコナイをどうにかするまでは我慢して貰えないかな、お嬢さん。
彼の洞察力と判断力、決断力と行動力は必要不可欠なんだ。」
ふん。
対極というより正しくは水と油と言った方が、この場合は正しい。
正義と悪、光と闇、これらが混じり合う事などあろうはずがないのだからな。
が、鳴海警部が俺を高く評価してくれている事については正直な感想として嬉しく思う。
「感じる。
段々とナリソコナイの意識が覚醒していってるのを。
もうすぐ本格的に胎動を始めるわね。」
空を見れば、太陽は沈みかけ、月が顔を出し始めていた。
「お嬢さん。」
「鳴海さん、美夜でいいわ。」
この小娘、本当にいちいち癇にさわる。
が、鳴海警部は帽子をとってイングランド紳士の如く一礼をしてみせた。
こういう大人としての器量が俺にはないのが、俺の唯一の欠点なのかもしれないな。
「美夜さん、申し訳ないが早速ナリソコナイの追跡調査にご協力を願いましょう。」
鳴海警部の紳士的な対応に気をよくしたのか、美夜は俺達を手招きした。
「ここよ、このスーパーからナリソコナイの気配を感じる…。」
おいおい、随分と歩かせてくれたものだな。
気がつくと、辺りはもう真っ暗になっていた。
中心街からは随分離れたようだな。
辺りは閑静な住宅街であり、その一角に小さなウルメシティーという名のスーパーがあった。
俺達3人は店内に入ると、中には5人のおばさんが何やら世間話に華を咲かせている。
「美夜。
貴様の導きによると、店内にいるレジの女性3人、買い物客5人の中にナリソコナイがいるという事なんだよな?」
と俺が問いかけているのに、このアホぅはまたも無視をした。
「鳴海さん、ここにいる人間の誰かにナリソコナイが取り憑いているのは間違いないわね。」
ふん、まぁいい。
今はせいぜい利用してやるさ。
「さて、ここにいる8人の誰かを特定するのがやっかいだな。
美夜さん、何か策はないものだろうか?」
ナリソコナイが尻尾を出さなければ、こちらとしては打つ手がない。
「向こうもあたしの存在に気付いているはずだから、かなり用心しているんじゃないかしら。
そうそう迂闊な手段は講じないと思うけど…。
でも、ナリソコナイからすればあたしの存在は天敵だから案外、戦々恐々としているかも。」
ならば1人ずつ尋問して暴き立てるか?
いや、そんな真似をしたらナリソコナイがどんな暴挙に出るかわからん。
「平然とした顔でやり過ごそうとしている奴の方が、この際は怪しいのでは?」
俺はそう言ったが鳴海警部も美夜も、それに対する返答はなかった。
まぁ当然だろう。
そんなあやふやなもので行動に移す程、俺も鳴海警部も馬鹿ではない。
それに返答を求める為の問いでもない。
「きゃーっ!」
俺達の沈黙を破る悲鳴が奥の自動販売機の方から聞こえた。
「どうやらやっこさん、俺達が思ってた程に利口ではないようだな。」
すると俺の発言に、鳴海警部も乗っかってきた。
「みたいだね。
雉も鳴かずば撃たれまいに。」




