第二章<実態>
すると、美夜は再びツーンとした澄まし顔になって顔を横に向いた。
どうも、こいつは俺を苛立たせる天才のようだな。
「あたしの火は外敵や不浄な存在を消しさる為のものなの。
だから本当の火とは、ちょっと違う。
それ以前に、あたしをライターの代用品にしようとした事を謝って!」
ふん、使えない奴だ。
「まぁいい。
悪かったな、でいいか?
悪いついでに聞くが、ナリソコナイとやらは具体的にどんな存在なんだ?
液体状か個体か。
人の姿をしているのか、人外の姿をした化け物か。
大きさはどんなものだ?
そもそも、知能というものがあるのか?」
俺は苛立ちもあって一気にまくしたてた。
「はぁぁ。
貴方って寡黙っぽくて格好良いストイックな人かと思っていたのに、話してみると随分想像していた性格と違うわね。
なんか理屈っぽいし面倒くさそうだし。
しかもその上、偉そうで上から目線だし。」
あぁ、俺は元よりこういう性格なんだよ。
「くだらん俺の分析結果なんざ、どうでもいい。
それよりさっさと俺の質問に答えろ、このアホぅは。」
呉越同舟と思いながらも、俺はついキレた。
「やぁ~めた。
そもそも、あたしが刑事さん達に協力する筋合いはないものね。」
ちっ、やはりそう来たか。
ここまで我慢した俺の寛大さを無にしおって。
「そう言わずに教えて貰えないかな、お嬢さん。」
俺と美夜とのやり取りに、いつの間にかやって来た鳴海警部が割って入ってきた。
「合流時間よりも随分と早いですね。」
すると鳴海警部はバツの悪い顔をして帽子を目深にかぶった。
その様子だと、どうやら俺と状況は同じといった所か。
「事件は頻発しているというのに、誰も犯人を目撃した人がいなかった。
一体どうしてなのだろうか、お嬢さん。」
鳴海警部は帽子をとって紳士のように会釈をすると、やっと美夜の機嫌も回復したようだ。
「目撃例がないのも当然よ。
だってナリソコナイの本体は液体。
あいつは人間の口から人に取り憑いて、その体内の血を吸い尽くすの。
そうやって人間から人間へと渡り歩いて捕食していく。
大きさは左程大きくはないけど、でも取り憑いた人間を操る力を持っているから相応の知能はちゃんとあるわ。
吸血鬼でありながら高い知能を持ったスライム形のジェル物体。
それがナリソコナイの本体なの。
やっかいなのは近くにいる認識は出来るんだけど、誰に現在取り憑いているかまではわからない事。
あたしが手こずっているのも、それなの。
ここにいる無愛想で居丈高な藤田 春樹くんよりも、大人で紳士な対応が出来る刑事さん。
これでおわかりかしら?」
無愛想で居丈高で悪かったな。
貴様だけは絶対に俺が逮捕してやる!
「俺は鳴海 総一郎。
鳴海さんでいいよ。
とりあえず、この一件が片付くまでは相互協力という事でいいかな?」
美夜は俺の顔を見て、明らかに腑に落ちない顔をして考えこんだ。
しかし今はそれが得策だと思ったからか、しぶしぶながら承諾する事にしたらしい。
「それで早速だが、そのナリソコナイは今どの辺りにいるのだ?」
俺が問いに対して、美夜は不機嫌な顔で答えた。
「あれはあたしと違って夜にならないと動き出さないの。
それまでは取り憑いた人間の体内で眠っている。
つまり日中に限って言えば、取り憑かれた人間は普通の人間として、その人の性格のままで生活をしているのよ。」
ならば、夜に捜査をしなければ敵の尻尾さえ掴めないという事か。




