第二章<呉越同舟>
ふぅ。
しかも振りかえりざまに気付いたが、どうやら美夜は顕身しているようだ。
見た目は変わらないが、背中には炎の曼荼羅が空を舞っている。
どうやら妖火の使い手らしいな。
「わざわざ顕身してまでのご登場で悪いが、俺は今捜査中でな。
貴様の相手をしている暇はない。
ま、この事件が解決したら嫌でも貴様の逮捕に踏切る事になるだろう。
それまでは精々、余計な手を煩わすな!」
俺はそういうと、煙草とジッポライターを懐から取り出した。
「あの吸血鬼の刑事さんと一緒に?
じゃあ聞くけど、事件の足取りや有力な情報は得られたのかしら?
あんな死徒の吸血鬼さんじゃナリソコナイの居場所さえわかりはしないわ。」
ほぅ。
こいつ、ナリソコナイという奇妙な言葉を発したな。
つまり、こいつは事件の関係者という事か。
ちっ、何度トライしても火がつかないという事は、ガス切れか。
「貴様…。」
「美夜よ。
昨夜、教えたでしょ?」
こいつは!
俺が話を持ちかける前に、美夜は訂正を求めてきた。
全く糞生意気な小娘だ。
「美夜、お前さっきナリソコナイと言ったな。
何か知っているなら、教えろ!」
俺は出来るだけ譲歩して情報提供を呼びかけたのに、美夜はツーンと鼻にかけた態度ですました顔をすると、無視を決め込んだ。
あまりにも馬鹿にした態度に、思わず握り拳を作る。
だが、ここでキレても先の展開が望める訳でもないしな。
「どうした、さっさと答えろ。」
しかし美夜は黙したままだ。
「なんだ、言いたい事があるならさっさと言え。
俺は貴様と違って暇じゃあないんだ。
さっさと言わないと今すぐ斬り刻むぞ!」
と俺は試しに恫喝して反応を窺った。
すると、やっと美夜は俺の方に向き直った。
「あなたって絶対、今まで彼女とかいなかったでしょ!
っていうか、他人に物を聞くのになんでそんな偉そうな態度に出るの?」
ふん、アホぅが。
何を言い出すのかと思えば、くだらん。
「俺は恋愛なんぞにうつつを抜かす程、酔狂ではないんでな。
まぁそれはいい。
じゃあ改めて聞き直してやる。
ナリソコナイとやらについて教えて貰えまいか?」
俺が言い直すと、ようやく美夜はにんまりと笑った。
「まぁ、及第点にも達していないけど許してあげるわ。」
いちいち苛立たせる。
だが、まぁいい。
今はこんな奴でも使えるうちは利用してやるさ。
「ここ最近頻発している連続吸血殺人事件を起こしているのはナリソコナイ。
ナリソコナイは、ある闇マフィアが実験的に作り出し、そして失敗して廃棄された妖かし。
そしてあたしもナリソコナイを排除する為に動いている。
何故ならナリソコナイは、あたしがかつて闇マフィアに所属していた時に作り出した妖かしだから。
ナリソコナイは、あたしの血液とDNAを元に作り出されたものなの。
本来の目的は、生物兵器として育成し、それを戦時下にある国に売る予定だった。
でも制御出来る代物ではなかったわ。
だから、あたしはその責を取る為にマフィアから脱退して排除に乗り出しているの。
マフィア時代は黙ってても美味しい血を摂取出来たけど、今はそうもいかないから、たまぁに美しい女性や男性の血潮を頂いている。
ナリソコナイはあたしの出来の悪い分身だから、どの辺りにいるかあたしは感知できる。
藤田 春樹くん。
あなた達のような刑事が動かずともナリソコナイはあたしの手で消去するわよ?」
ふん。
口を開いたかと思えば、随分と長々と語ってくれたな。
闇マフィアとは、恐らく俺が長らく追い続けている組織、ブラッディマリアの事だろう。
ブラッディマリアと言えば、闇で若い美男美女の人間の生血を吸血鬼に高く売りつけるのが主な商売だと聞いていたが、まさかそんな死の商人まで手広くやっていたとはな。
どっちにしても、こいつを利用しない手はないだろう。
が、利用はするが全てをこいつに処理させると美夜の存在が必要悪であると承認するようなものだ。
それだけは俺の矜持が許さない。
「断る!
人に仇名す害悪は、人の手でカタをつけるのが筋というものだ。
だが貴様…、美夜にも重大な罪と責任がある。
よって、俺達の捜査に協力して貰うぞ。
貴様もナリソコナイ排除に乗り出しているのならな。
それと、ジッポライターのガスが切れた。
貴様の火を貸せ。」




