第二章<捜索>
初対面だが俺にはわかる。
この男、表面上はにこにこと笑っているが全く隙がない。
そう、この男は恐らく何度も死線を潜り抜けてきた目をしている。
傍にいるだけで、その存在感と凄みがビリビリと伝わってくるようだ。
成る程な、確かにこの男とパートナーを組めば事件解決もスピーディーに行えそうだ。
嫌いな吸血鬼だが背に腹は代えられん。
「さっそくですが、ここ最近で起こった吸血事件の資料を一覧させて貰えますか?」
ほぅ、意外とデータや状況などによる柔軟な対応も出来そうだな。
とりあえず自分のデスクに戻った俺は、机の引き出しに納めていた書類一式を鳴海警部に手渡した。
「ここ最近、特に京都では連続吸血事件が多発しています。
そして今年に入って5件のうち、3件は吸血殺人です。」
さて、どう見る?
「ふむ。
昨日、藤田くんと対峙した吸血鬼は、恐らくこのうちの2件ではないかと分析するね。」
ほほぉ、俺の読み通りか。
「はい、僕もそう思います。
昨夜の奴は、殺人を犯してはいないと何度も自供している事から、殺人事件を起こしている犯人とは別でしょう。」
そんな俺の断言に、鳴海警部は思わぬ質問をしてきた。
「では聞くが、どうして昨夜の吸血鬼が殺人事件を起こした犯人じゃないと断定したのかな?」
ふん、この男は俺を試そうというのか?
「簡単なプロファイリングですよ。
本当は殺人を犯しているのにやっていないとシラをきる奴は、どこか挙動不審で目が泳いでいたりと何かしらのリアクションがある。
また、事実を受け入れたくないという奴なら、どこか言い訳じみていたり、何度も同じ発言を繰り返したりする。
昨夜の奴の場合、自ら吸血を認めていた。
それに殺人を犯していない自分を自己正当化していた。
ああいうタイプは身勝手で我が儘で自己愛が強く、自分の美学を自分で壊すような事はしない。
よって殺人を犯す事はまずないと思います。」
すると鳴海警部は変わらない笑顔のまま、大きな拍手をした。
「成る程。
藤田くんは僕が思っていたよりも遙かに頭が切れますね。
それに昨夜の戦闘も沈着冷静で悪くない。
そして何より強い!
が、相手を分析する力に難がある。
君は強いから、時に油断を生じさせるきらいがある。
以後は荒事は僕が担当しますので、そのつもりで。」
ふん、端から俺はそのつもりだ。
残念だが俺は吸血鬼なんて得体の知れない化け物と戦う訓練なんぞ受けた覚えもないからな。
「わかりました、今から犯人捜索をするので、宜しくお願いします。」
俺は努めて笑顔を作って鳴海警部に会釈をした。
「あぁそれと!
これからはパートナーとなるのですから。
出来れば春樹くん、鳴海さんぐらいの呼び名で行きたいんだけど、いいかな?」
ちっ、別にそう呼びたいのなら好きにすればいい。
「わかりました、鳴海さん。」
俺もまだまだだな。
笑顔が若干、引き攣っているようだ。
午後4時…
俺と鳴海警部は、あえて昨夜の場所へは行かずに祇園へと向かっていた。
第一に殺人を犯した犯人を探す為である。
夕方ともなると、流石に3月とはいえ冷えるものだ。
俺は地下鉄の四条駅辺りで足を止めた。
不意に俺が足を止めたのが気になったのか、鳴海警部が話しかけてきた。
「どうしたんだい、急に立ち止って。」
すると俺は、懐から煙草とジッポライターを取り出した。
「成る程、ヘビースモーカーなんだね。
でもね、煙草なんて体に悪いものを吸ってると早死にするよ?」
ふん、余計なお世話だ。
「俺は故なく長生きしたいとは思ってないんでね。
大事なのはどれだけ生きたか、ではなく、どう生きるかという事。
それのみに執着しているんですよ。」
我ながら大人気なかったかな。
だが嘘を言っている訳でもない。
ただ、永遠を生きる吸血鬼の鳴海警部には嫌味にとられたかもしれない。




