第二章<パートナー>
京都府警…
第一捜査課…
俺は正直、不機嫌だった。
なんとか人間でいられはしたが、結局助けがなかったらあのまま…。
いや、考えるのはよそう。
俺だって決して暇ではない。
いくつもの難事件を抱えている身としては、奴の事や昨日の敗北に項垂れている時間はない。
と、そんな時だった。
「藤田くん、ちょっと来たまえ。」
不意に俺は木戸課長の手招きをうけた。
木戸 孝義課長。
先祖をたどれば桂 小五郎と遊郭の花魁、幾松との間に生まれた子の家系らしい。
因みに桂 小五郎とは長州派の維新志士。
後に維新三傑の1人と言われる。
まぁ、俺は左程歴史に詳しい訳ではないので、真偽の程は定かではない。
木戸課長の容姿は一言で言えば、ロマンスグレーという表現が似合う。
オールバックに涼やかな顔が年上好きな婦警には人気が高い。
が、上司という点を考えると手放しでは騒げないであろう。
何故なら課長は優しげな雰囲気とは裏腹に、仕事ではシビアで厳しい一面を持つ。
正直言って、俺も嫌いではないが苦手な分野に入るタイプの人間だ。
そんな課長の手招きをうけたのだから、恐らくは厳しいお言葉でも頂く事になるのだろう。
「わかりました。」
俺は言葉少なに返答し、重い腰をあげる事にした。
「藤田さん、あいたただね。」
「御愁傷様です、藤田さん。」
ふん、同僚が一応に同情の目で俺を見る。
俺はとりあえず笑みで応えたが、別に同情されるいわれも憐みをうける筋合いもない。
が、あまり上機嫌という訳にもいかないがな。
俺は課長室の前に着くと、曲がっていたネクタイを戻し、襟首を正した。
「藤田です。」
俺の思考に反して、木戸課長からは陽気な声が返ってきた。
「おう来たか、入れ入れ。」
なんなんだ?
訝しげに思いながらも、俺は課長室の中へ入った。
すると、課長室では課長と一緒に昨日の救世主が待っていた。
年齢からすると、30代後半だろうか?
渋いハードボイルドが似合う漆黒のハットに黒いスーツ。
悔しいが松田 優作の探偵物語のような容姿と大人の魅力が放つ、その姿は俺にはないものだった。
しかも、どうやら課長の知り合いのようだ。
「やぁ、昨日は危うい場面だったね。」
ちっ!
いきなり昨日の話か。
だが、木戸課長は不機嫌な態度をあらわにした俺の肩を叩いた。
「藤田くん、昨日のあらましは鳴海から聞いた。
君らしくない失態だと言いたいが、我々はそういった吸血鬼逮捕の専門家ではない。
だからな、藤田。
今日から鳴海 総一郎とパートナーを組み、ここ最近起こる吸血鬼事件の謎を追え!
こいつもまた吸血鬼だ。
ただし世界吸血鬼政府から派遣された、れっきとした歴戦の刑事だ。」
木戸課長の言葉に、鳴海 総一郎は付け足した。
「元々は人間だったから、言うなれば死徒というやつだがな。」
なんだとぉ?
冗談ではない!
俺はなんの力もない一介の警部補だぞ?
それに俺は吸血鬼という種族を認めていない。
いや、それどころか嫌悪すらしている。
そんな俺に、こんな奴と連携して事件にあたれだと?
「明治の剣客警官隊でもない藤田くん。
伊達に特例で日本刀を帯刀する許可を与えている訳ではないんだからな。」
くそっ、それを言われると弱いな。
「宜しく…。」
ふん、まぁいい。
なら俺はその実力を利用させて貰うだけだ。
と、そんな俺の思惑にもかかわらず、鳴海警部はにこりと笑った。
「こちらこそ、宜しく。」




