第二章<~プロローグ3~>
間合いを詰め、刹那の拍子で抜刀しつつ平晴眼からの平刺突を疾走とともに決めたはずだった。
が、実際には俺の切っ先はいとも簡単に止められた。
「馬鹿な!
俺の平刺突を左手の親指と人さし指のみで切っ先を挟んで止めただと?」
そう言った瞬間、俺は心底こいつら吸血鬼の存在にゾッとした。
今まで漆黒の瞳だったはずなのに、突如その瞳は真紅の色に染まったからだ。
「うふふふふっ。
あたしが貴方の殺意に気付かなかったとでも?
人間の思考なんてあたしにはすぐに読み取れるのよ。
それに…。
あたしの魅了[チャーム]の能力を貴方は侮りすぎている。
さぁ、眠りなさい。
あたしの胸の中で。」
くっ、なんて能力だ!
悔しいが体が言う事をきいてくれない。
俺の体は、俺の意思に反して刀を捨て、そしてまったくの無防備な姿で奴の方へと歩き出していた。
無念だが、確かに俺は吸血鬼の、それも真祖の能力を侮りすぎていたようだ。
「うふふふふ。
さぁ、おいで。」
悔しいがどうにもならない現状に、俺は覚悟を決めた。
こんな奴の思惑通りになるぐらいなら、自決を選んでやると。
だが口を開けて舌を噛み切ろうとした時、奴の瞳はさらに輝きを増した。
「まだ自殺しようなんて気力があるんだ。
貴方のように誇り高い男を見たのは初めてよ。
でもね、自殺なんてさせてあげない。
貴方が何故、いつも現場であたしの姿を見れたのか?
そして何故、笑い声を聞かせてあげていたのか、わかる?
あたしはいつでも刑事さん、あなたをターゲットにしていたから。
そして今宵、あたしの夢がかなう。
明日からは貴方はあたしの下僕として生きるのよ、藤田 春樹くん。」
ちっ、名前まで知っていやがるのか。
そして奴が大きく口を開き、その牙が俺の首筋をとらえかけた瞬間!
一発の銃声が鳴り響き、奴はとっさに俺から離れた。
「ふん、どうやら忌々しい魅了[チャーム]から解放されたようだな。」
銃声を放ったのは、暗い夜道に加えて遠目だった為にわかりずらいが服装から鑑みると刑事のようだ。
「君、大丈夫か?」
ふっ、救世主のおでましか。
俺の睨んだ通り、駆け付けてきたのは刑事だった。
「なんだか興が削がれちゃった。
貴方の血は、今度必ず飲みほしてあげるからね!」
アホぅが!
二度も同じ手口にかかる俺だと思うのか?
「逃がすか、このアホぅ!」
と平晴眼を改めて構えたが、すでに奴は姿を晦ました後のようだった。
「あたしは美夜。
吸血姫 美夜。
この京都の夜を支配する者よ。
うふふふ、あはははは。」
ふん、ぬけぬけと。
だが俺は知らなかった。
あの吸血姫が実は、後の相棒となる上条 美紅の義理の姉とは。
美紅によると、吸血鬼世界連合の法律に合意出来ないからと家を飛び出したらしい。
今宵は俺の負けを認めざるを得ない。
だが、次こそは必ず逮捕してやる!




