第二章<~プロローグ1~>
「ふふふっ、うふふふふっ。」
月夜の闇で、どこからか不気味な少女の声が聞こえる。
ちっ。
どうやらまた血に飢えた七五三のような、似合いもしない白装束の着物の格好をした、小悪魔娘が現れたのか。
だが、いつもその声を探しても残念ながら逮捕が出来ない。
だが、必ず捕まえてやるぞ!
と決意をした矢先、共にパトロールをしていた警察官が何かを発見したようだ。
「藤田警部補、またですわ。
見た目からして被害者は高校生のようですな。
ほんま、次々と容姿の整った美少年や美少女ばっかり襲われてますわ。
こんな事件、そうそうあらしまへん。」
どうやら遅かったか。
とりあえず俺は、その年配の警察官を落ち着かせると、懐から煙草とジッポライターを取り出して一服を決め込んだ。
「今月に入ってこれで5件。
こうも吸血鬼による連続吸血事件が続くと、政府も新たな組織を考慮せねばなるまいな。
噂では、対吸血鬼用の刑事組織が結成されるとは聞いているがな。」
俺はふぅと煙を吐くと、神社の鳥居を見上げていた。
ここは京都…
雅で華やかな1000年王都であるが、幕末においては各々が掲げる正義の為に多くの血が流れた戦場でもある。
維新の為に戦った志士や、幕府を守り、この京都の治安の為に戦い続けた新撰組の鎮魂の為にも一刻も早く奴を逮捕せねばなるまい。
「とにかく、私は本部に報告をせなあきまへんので、ここで失礼させて貰いますわ。」
俺は年配の警察官を見送ると、神社の階段に座り込んだ。
俺は藤田 春樹。
歳は今年で25歳。
元々は東京の三鷹市に暮らしていたのだが、故あって京都府警に転属となった。
いわゆるノンキャリアではあるが、それでもこの歳で警部補とは異例の事らしい。
そして京都は俺にとって深い因縁のある場所でもある。
何故なら俺の先祖を辿ると、俺の祖先はかつて壬生狼だったからだ。
壬生狼では聞き慣れないかもしれないな。
京都守護職、松平容保公預かりの新撰組の事。
俺の祖先はかつて、新撰組三番隊組長を務めた斎藤 一なのだ。
しかし新撰組も維新の歯車にはあらがえず、やがて瓦解した。
斎藤 一はその際に副長、土方 歳三と袂をわかち、やがて藤田 五郎と名を改めた。
新撰組自体は、終焉の地である函館まで続くのだがな。
ま、そんな系譜故に藤田姓となった訳だ。
「こんばんは、美形の刑事さん。」
ふっ、アホぅが!
大人しく俺が立ち去るまで姿をくらましていれば良いものを。
薄暗い道に不意に人影を認めたのでよく見ると、そこには白装束に赤い帯をしめた16歳ぐらいの幼い容姿をした小娘がいた。
容姿は美人系というより可愛らしいという表現だろうか。
長い黒髪を赤い紐で束ねた、現代のファッションというより古風で時代錯誤な姿だ。
「で?
いい加減、自分の罪を清算する覚悟は出来たのか?」
まさかな。
もしも罪の意識というものを持っているなら、こんな大量吸血事件など犯すはずもない。
「貴方達人間は、いつもそう言うのね。
人間の価値観を一方的に押し付ける。
歪んだ目で私達を見て、恐れ、そして理解しようともしない。
貴方に私の心情がわかる?
それにね?
私は罪を犯している訳ではないの。
人を殺めてなどいない。
私は人間が望むから、夢をあげるだけ。
永遠に続く、幸せな時間を。
貴方が望むなら、貴方にも永遠をあげる。」
どうやら、そうやって自己を正当化する事に終始しているからこそ、物事の本質や罪から逃れられているらしいな。
「アホぅが!
だったら俺が貴様のそんなくだらない理念を徹底的にぐぅの根も出ない程に論破してやろう!
そうすれば、貴様の醜い罪だけが浮き彫りとなる。
まず第一。
貴様は人を殺めていないといったな?
だが、貴様に吸血された者は皆、貴様の言う夢という現実逃避に捕らわれて廃人同然になっているではないか。
あんな姿を生きていると言えるのか?
あれなら素直に殺されている方がまだ救いがある。
何故だかわかるか?
人の命とは限りがあるからこそ、懸命に生きるのだ。
自らの運命や宿命、そして悲しみや苦しみや逆境から逃げずに立ち向かい乗り越える為にだ。
人を真に救うのは、現実逃避に手を貸す事では断じてない!
時には叱咤し、そして前を向いて生きる者には精一杯の激励をする。
共に泣き、笑い、そして艱難辛苦を乗り越えて人生を勝利で終わらせる事こそが救いとなるのだ。
それに夢という現実逃避が本当に幸せだと思っているのか?
現実から目を背け、悲しみや逆境から逃げる行為なぞ堕落以外の何物でもない。
本当の幸せとは、本当の夢とは、そんな現実から逃げずに向き合い、乗り越えて掴みとるからこそ夢であり幸せというのではないか!」




