第一章<川島氏の思い>
でも私が決断出来ないでいると、アマーリエさんは再度歌を歌い始めた。
忽ち眠りの世界へと誘われる涼子さんとメイドさん達…。
「いけない、今私までが眠ってしまっては…。」
しかし自分の意思とは無関係に、猛烈な眠気は私を誘惑してくる。
「ふふふふっ。
優しくて可愛らしい吸血鬼の刑事さん。
貴女を甘く見ていた事、謝っておきますわね?
お詫びといってはなんですけど、貴女には心地よい死の眠りで冥府へとお送りさせて頂きますわ。」
そういうとアマーリエさんは美しく輝く長い尻尾を私の首に巻きつけ、そして頸動脈を停止させようとしてきた。
あぁ。
歌と首がしまる同時攻撃に、私はもう意識を保っていられない。
「アホぅが!」
危うく意識を失いかけた刹那、玄関から突如現れた春樹によって私は救われた。
「げほっ、がはっ!」
はぁはぁ、あぁ危なかった。
見れば私を締めつけてきた尻尾の先端は、春樹の日本刀によって貫かれている。
駆け付けざま春樹は、疾走しつつ刀を横に寝かせて突進してきたみたい。
後で聞いたんだけど、春樹曰く、平晴眼の構えから繰り出される天然理心流の平刺突って技らしい。
「あぁっ、痛いっ!」
あまりの激痛にアマーリエさんは思わず尻尾を引っ込めた。
「だぁからお前は爪が甘いんだよ、このアホぅは。
謎解きをするのには成功したんだろうが、犯人がそのまま大人しく逮捕されるとでも思ったのか?
こういう展開になるかもしれないというぐらい、少しは悟れ!」
仰る通り…。
悔しいけど春樹が来てくれなかったら、ここにいる全員がアマーリエさんの能力によって無理心中させられる所だったからね。
場が膠着状態になったからか、春樹は不意に懐から煙草とジッポライターを取り出して一服した。
「アマーリエさん、こいつの謎解き以外にもネタはあがっている。
川島 高次氏が言っていたストーカーの正体もな。
ストーカーの犯人はやはり伊東 雅人の弟、伊東 四朗だった。
俺はここを離れて後、すぐさま伊東 四朗の住まいへと足を運んだがもぬけの空だった。
恐らくこうだろう。
あんたは伊東 雅人が逮捕されて後、直接その逮捕に繋がったのは夫の川島氏が警察にたれこんだからだと奴に話したんじゃないか?
そして同時にあんたの胸中もな。
だが奴は真面目な男だった。
実際、一度も犯罪に手を染めた経歴もなければ、職場の人間とも仲良く共存していたようだった。
だから川島氏を憎む気持ちもあったが、だからといって川島氏を襲って殺す度胸もなかった。
そこであんたは、仇は自分が取るからと奴に自宅までストーカーをしてくれと要請した。
あたかも伊東 雅人が刑務所から抜け出し、自分を殺そうとしているように。
案の定、川島氏は怯えた。
あんたとしては俺達アブジーを呼び出す条件を整える事に成功した訳だ。
そしてなおかつ、俺達を自分のアリバイ工作に利用しようと考えた訳だ、皮肉の意味を込めてな。
あんたの計画では、おおかた伊東 四朗を犯人にでも見立てる魂胆だったんだろう。
そして用済みとなった伊東 四朗はあんたの手によって殺された。
奴の死体もすでに発見している。
エリジェベート・バートリの伝説に習って庭園の薔薇のこやしかと睨んだんだが、思った通りだった。
少しは頭を捻るべきだったな。
そしてもう一つ!
あんたは致命的な勘違いをしているという事だ。
それは三村 陽子と川島 高次氏との関係。
あんたはあの2人に恋愛感情があり、肉体関係もある、とでも思っているのだろう?
それは早計だった。
あの2人の関係は、れっきとしたビジネス関係でしかない。
三村 陽子には裏の顔がある。
あの女は吸血鬼専門の闇マフィア、ブラッディマリアの幹部だった。
何故ファイバー製薬の社長と裏マフィアにビジネスが成り立つのか?
それはある研究を行う為に手を結ぶ必要があったからだ。
それは、吸血鬼の血を薄めて人間の血と融合させる事によって、人工的にヴァンピールを作り出せないかという研究だ。
何故、川島氏がそんな研究に手を染めたかわかるか?
生粋の吸血鬼と違ってヴァンピールには寿命が存在する。
代わりに人間と同じように日の光に照らされても平然としていられる。
そして何より人間と同じものを食べて、同じように生活が出来る。
そう、川島氏はあんたを人間にしたかったんだよ。
同じ時を生きて、そして死ぬ。
そんな当たり前の幸せをあんたに味わって欲しかったんじゃないか?」
春樹の話を聞いたアマーリエさんは、顕身を解いて人間の姿に戻ると、がっくりとうなだれた。




