第一章<悲しき狂気2>
「あの人の傷が完治し、私は別れを覚悟していた。
だってそうでしょ?
いくら時代が吸血鬼と人間との共存繁栄を歌っていたって、所詮は相容れない存在。
私はあの人の障害になりたくなかった…。
そしてそれ以上にあの人に嫌われたくなかった。
だって心の奥底から愛してしまったんですもの!
いつか私があの人にとって重荷となる運命なら、身を切る程に辛くても別れるべきだと。
心の傷が浅いうちに…。
でも私の心情を悟ったのか、あの人は言ったわ。」
アマーリエさん…。
愛故に苦しんで、一度は決別しようとしていたんだ。
「どうして最近君は、私に対して急によそよそしい態度をとるんだい?
何か気に障った事でもした?
それとも…。
君は私を信じては、くれないのかい?
私が君と愛を育んだ日々を、一時のアバンチュールだって言うような軽い男だとでも?
もしそう思っているのなら、私の君への愛が足りないのかもしれない。
私は君を愛している!
そして、一生涯君だけを愛し続ける!
だから、私と結婚してほしい。」
そう、あの人は別れを決意していた私にプロポーズをしてくれた。
嬉しかった…。
故郷ギリシャのラミア市民でなくなっても、遠く離れた日本の東京に生活の場を移す事になっても悔いはないって思った。
結婚してからの満ち足りた日々。
私は本当に幸せだった…。
でも永遠に幸せが続くなんてありはしなかったのよ!
やっぱり人間の男は人間の女が良かったのよ。
あの女、三村 陽子がメイドとして屋敷で働くようになって全ては変わってしまったわ。
あの人はあの女に夢中になって、屋敷内で公然と蜜月を迎える仲になっていった。
その時の絶望と慟哭が貴女にわかって?
人間の男なんて、所詮そういう薄っぺらい存在よ。
私はあえて、2人の蜜月を気付いていないふりをした。
それが私に出来る、精一杯の矜持を守るすべだったから。
だってあの2人を問いただし、怒りと悲しみで取り乱すなんて出来ない。
そんな惨めになる行為をするぐらいなら、私が2人を殺すしかない。
ふふふっ、そうね。
あの人の首でも撥ねてサロメみたいにおどけてみせようかしら?」
やめて!
もう聞いてられない。
私は、悲しみで胸が潰れてしまいそうになった。
ふと気がつくと、涼子さんも他のメイドさんも泣いていた。
あはは、やだ私まで。
「刑事さん、泣いてくれているのね私なんかの為に。
涼子さんもメイドの皆さんも有難う。
だったら…。
この悲しみを同居してくださった皆さんの優しさに甘えても良いわよね?
死んで頂戴、私と一緒に!」
するとアマーリエさんは顕身し、忽ち上半身は人間の美女、下半身は蛇の半身半獣の本来の姿を現した。
ええっ?
そっか、アマーリエさんは覚悟していたんだ。
だからあんなにもあっさりと自分の犯行を認めたんだ。
でもどうすればいいんだろう。
涼子さんやメイドの皆さんを守らなきゃいけない。
そんな事はわかってる。
私だって今殺される訳にはいかないわよ。
でもね、だからって私にはアマーリエさんと戦うなんて出来ない。




