第一章<悲しき狂気>
するとアマーリエさんは諦めたからか、それとも別の意味で何かを企んでいるのか?
それはわからないけど、驚く程に妖艶な微笑みを私に返した。
「違わない。」
みっ認めちゃうのぉ?
私はあんまりにも早くアマーリエさんが犯行を認めたので、ちょっと拍子抜けした。
「でも吸盤の辺りは違いますわね。
私は吸盤なんてありませんわよ?
刑事さんのない頭に免じて、私が種明かしをして差し上げますわ。
どうやってあの高い場所にある飾り窓まで登ったのか。
答えは尻尾ですわ。
大きくジャンプして体を反転させ、飾り窓に尻尾をつっこみ、それをフックとしたの。
そして尻尾を振って遠心力をつけ、そのまま本体を持ち上げて飾り窓を掴み、体を固定した。
後は皆、御察しの通りよ。
因みにアブジーに事件解明を依頼したのも私。」
あっちゃぁ。
犯人に謎解きをご教授願うなんて、春樹がいたら首をしめられちゃう。
「何故この計画を思いついたアマーリエさんが、わざわざアブジーに依頼を?」
するとアマーリエさんは顔を曇らせて言った。
「何がアブジーよ…。
人類吸血鬼連合よ!
所詮、吸血鬼と人間がわかり合える訳ないじゃない。
人間と化け物が仮初の平和なんて歌っていたって、そんなの綺麗事よ。
何か一つ歯車が狂えば、忽ち相争う運命じゃないの!
捕食する側と捕食される側。
そんな関係がうまくいく訳ないんじゃなくって?
私はそんな夢物語を平然と言うアブジーや吸血鬼世界政府が信じられない。
だから貴女達に挑戦状を叩きつけて、かつ、私のアリバイ工作に利用してやろうと思ったまでよ。」
何故だろう…。
悪態をついているアマーリエさんから、その心の奥底では血の涙を流しているのが見える。
吐き捨てるように悪態をつくアマーリエさんを、私は思わず抱きしめたいと思った。
「どうして?
どうしてそんな悲しい事を言うの?
だって貴女はあんなにも川島氏と深く愛し合っていたじゃない。
だからこそ結婚までしたんじゃない!
なのに…。
アマーリエさん、一体何が貴女をそんな悲しい狂気に走らせてしまったの?」
そう言いながらも私にはわかる。
いえ、わかってしまった。
でも、私はあえてアマーリエさんの口から真相を聞き出す事によって、今後の罪を購って再出発する未来のアマーリエさんの為にふんぎりをつけさせてあげたかった。
「あの人、川島 高次さんは素敵な人だった。
あの人は旅行でギリシャまで来ていたの。
でもキプロス島から出た船が難破し、船は沈没。
私はたまたまエーゲ海に流されていたあの人を救出した。
そして息を吹き返したのを見届けた私は、立ち去ろうと思ったの。
けれどあの人は立ち去ろうとした私の腕を握った。
そして言ったの、顕身した醜い姿の私に…。
「待ってくれ。
最初は人魚かと思ったけど違ったんだね。
有難う、優しくて美しい蛇の君。
私は命の恩人である君に何が出来るだろう?」
2人の出会いって本当に王子様と人魚姫の話みたいね。
なんか憧れちゃう。
「嬉しかった。
私みたいな半身半獣の吸血鬼に驚きもせず怯えもしないで、真っ直ぐな瞳で優しく囁いてくれた事。
そして私はあの人と恋に落ちた。
私はあの人を私の棲む洞窟に連れていき、あの人の傷が癒えるまで御世話をした。
そして昼夜を問わず、私達は深く愛し合った。
あの人は何度もロールミーと叫んでは、私を求めてくれた。
馬鹿だったのよ、私。
そんな幸せが永遠に続く訳もないのに、どんどんあの人にのめりこむ自分を抑えられなかったの。」
…。
そんな素敵な出会いをした2人だったのに、どうして?
というか、どうでもよいのだけどロールミーって何かしら。
まぁ、それは後で物知り春樹にでも聞いてみよっと。




