第一章<謎解き2>
「私はこの時点では犯人が誰なのかまでは気付かなかった。
でもうちの相棒、春樹はすでに全てを見とおしていたのよ。
その上で、あえて久美さんを容疑者として署に連行し、貴女の油断を誘ったの。
まぁ正直な話、春樹が去り際にヒントを残していってくれなかったら恐らく真相まではたどり着けなかったかもしれない。
案の定、貴女は春樹の思惑にのって第二の犯行に乗り出した。
そして…、致命的なミスを貴女は犯してしまった。
そう。
第二の犯行によって貴女は私に殺害した犯人は内部の人間以外には有り得ないと悟らせてしまった。
貴女は第二の犯行によって外部の犯行をさらに印象づけたかったのかもしれないけど、でも2階の応接室は外壁が垂直であり、人間がそれを登って犯行を行うのは無理。
よっぽど長い梯子を使って内部への侵入を果たすという線も考えたけど、でも窓は完全に閉まっていた。
密室に拘ったのが貴女の最大のミス。
私が仮に貴女の立場であったなら、窓はむしろ開けておいたわよ?
そして吸血鬼による犯行も外部からでは無理。
何故なら全ての吸血鬼に共通するウィークポイントとして、初めて訪れる建物に侵入するには、内部の人間による承認が必要ですもの。
まぁ、内部の人間を吸血して同胞とし、手引きをさせるという方法もあるけどね。
でもそれだって全ての吸血鬼が出来る能力じゃない。
密室のトリックに余程、自信があったんでしょうね。
でもそれがアダになってしまった。
第二の殺害の真相!
川島氏殺害時に、確かにスペアキーは使用されていない。
貴女は第一の犯行を決行する前に、自分の歌がどの程度私に通用するのか。
それを私が寝ている時に試したんじゃない?
そして眠らせるまでは出来るものの、睡眠誘導までは出来ない事を知って、あえて私を利用して密室トリックを作り出す事を考えた。
人間に対して能力を行使するのと違って吸血鬼が吸血鬼に能力を使用すると、そこには制約や制限がある事を貴女は知っていたから。
だから貴女は1階の応接室に座る時、後ろに金庫がある椅子を私に勧めた。
その後、全員を眠らせて川島氏殺害に及んだ。
殺害のトリックもわかっているの。
貴女は顕身すると手に吸盤が現れるはず。
屋敷の廊下には一切、飾り窓周辺に登る為の傷は見当たらなかった。
例え梯子を使ったとしても、じゃあその梯子をどう処置するのか?
と考えたら、そういう手法でもなければ飾り窓からの犯行は無理よね。
じゃあ、あんな小さい飾り窓からどうやって川島氏を殺害し得たのか?
答えは睡眠誘導とポセイドンの甲冑、そして顕身した時に現れる貴女の長い舌よ。
貴女は寝室にいた川島氏を睡眠誘導して応接室に移動させると、内側から鍵をかけさせた。
勿論、密室を作り出す為にね。
で、飾り窓まで吸盤で登ると、今度は川島氏を睡眠誘導で扉の前まで来させる。
その後、貴女はポセイドンの甲冑…、いえ、正しくはポセイドンの三叉の鉾の秘密を使って川島氏を殺害した。
あの三叉の鉾はストローのように切っ先から底まで筒状になっていて、貴女は長い舌で三叉の鉾の底を手繰り寄せると、川島氏の首筋に刺して吸血し、殺害したのよ。
あたかも外部から侵入した吸血鬼の犯行と思わせる為にね。
で、肝心になってくるのはアマーリエさん。
貴女の吸血種族を知る事。
この世界にありふれた一般的な吸血鬼では、そんな特殊な能力や顕身時の異能さはない。
とすれば、恐らくは私と同じように特殊な希少種に違いないって思ったの。
春樹がくれたヒント。
それは蛇だった。
吸血鬼と蛇?
当然、最初は頭の中にクエスチョンマークが飛び交ったわよ?
でもね、春樹はずばり正鵠を射ていたのよ。
アマーリエさんの一族が先祖代々から家宝としてきたポセイドンの甲冑。
ポセイドン、蛇、吸血鬼。
答えは明快!
アマーリエさん、貴女の一族はラミアの末裔ですよね?
上半身は人間の美女、下半身は蛇の姿で知られている。
ギリシャ神話では海神ポセイドンの息子ベロスとその母、リビュエとの間に生まれた娘。
そしてもともとはリビアの女王。
しかしその美貌により最高神ゼウスに見初められたのが彼女の不運だった。
ゼウスの妻ヘラの怒りを買い、ラミアは半身半獣の姿に変えられ、ゼウスとの間に生まれた子供も全て殺されてしまう。
吸血種族に変えられたラミアは、歌によって人々を惑わせて吸血するという。
もうこれは状況証拠だけじゃなくて、確たる証拠も掴んでいるから、言い逃れは出来ないわよ?
で、私の推理は終わりだけど間違っているかしら?」




