第一章<真犯人の正体>
アマーリエさんの吸血種族。
多分、歌やトリックを考えるに、一般的な吸血鬼のそれとは違うはず。
誤解のないように言っておくけど一般的な吸血鬼って、実はそれほど特異な力ってないのよ。
せいぜい吸血した相手を自らの顕族に加える事ぐらい。
それに飛空能力かしら?
でもこれだって一部の真祖や真祖に近い力を持つ使徒に限定されているしね。
まぁ力や肉体的な頑丈さ、跳躍力に関しては、並の人間のそれとは比べ物にならないけど。
だからといって映画のように霧になったり狼になったり蝙蝠になったりなんて出来ない。
っていうか霧はともかく狼や蝙蝠になれたとしても、あの飾り窓に侵入なんて不可能だし。
うーん…。
参ったわね、完全に手詰まりかしら。
こんな時、春樹がいたらアホぅが!とか悪態をつきながらも良い思案を巡らせるのになぁ。
いけないわ、美紅。
久美さんを犯人扱いしたむかつく相棒に頼るなんて。
って…、ん?
そういや春樹、去り際に変わった事を言ってたわよね。
よーく思い出そう。
確か、俺が言った諺をよく咀嚼しろ。だったかしら。
そして肝心な諺が、今いち思い出せない。
えっとえっと…。
確か、女のなんとかに何かが宿るだったかしら?
そうだ!
女の情けに蛇が住むだ。
それに杯中の蛇影も言ってたわよね。
蛇?
でも蛇と吸血鬼って今いちピンとこない。
後考えられるのはポセイドンの甲冑…。
ポセイドン…。
確かギリシャ神話では3兄弟の中の1人で次男であり、海を統括する神。
長男のハデスはゼウスにしてやられて哀れ冥界を統括する神に。
考えてみればハデスって可哀想な神よねぇ。
要領が悪いっていうか、なんというか。
なんだか妙に私は親近感を持ってしまう。
あはは、なんだか私みたいだ。
末弟のゼウスは策を弄して万能の神。
万物の全てを司る。
でも私、正直言ってゼウスって大っ嫌いなのよねぇ。
っていうかあのじいさんは万物の神というより女性の敵よね!
言ってみればセクハラじじぃ。
女好きのスケベじじぃだし奥さんであるヘラさん泣かせの浮気者だし…。
しかも浮気した女性もヘラさんの猛烈な嫉妬で怪物にされたりしてるしね。
怪物!
蛇!
ポセイドン!
浮気対象となった女性…。
なんか、見えてきたかも?
これらのキーワードを鑑みると、見えてくる姿は1つ。
そっか、そういう事だったのね。
アマーリエさんの正体、そしてトリックが見えてきた!
顕身した姿をみれば、恐らく一目瞭然なはず。
あ、補足しとくね?
吸血鬼には人間の姿と真の姿、2つの姿があるの。
でも吸血鬼はまず、滅多に他人の前で顕身した姿を見せない。
人間の姿で生きる事を人類吸血鬼世界連合政府によって法律で義務づけられている。
それは人類との共存繁栄の為に必要な措置として。
だから当然、私にも顕身した真の姿がある。
さて。
後は動機よね。
でも、最愛のはずの川島氏を殺害した動機がわからない。
ここだけが未だ、私の中では不透明なままだ。
はぁ、結局私は春樹の知恵に頼らなきゃダメなのね。
春樹は陽子さん殺害の時点で、すでに真犯人を見抜いていたって事か。
恐らく春樹が屋敷から姿を消したのは、アマーリエさんの油断を誘う為。
そして自分の推理の確証を掴む為って所ね。




