第一章<隠された空間と謎の咬み傷>
さて、と。
拷問コレクター部屋へと戻ってきた私は、第一の殺人事件の情景を思い返してみた。
最初に部屋へ入ったのは4人。
私、春樹、川島氏、多田さん。
で、陽子さんの死体を発見し、私はアイアンメイデンから陽子さんの亡骸を取り出した。
さらにバルコニー側の扉で久美さんが倒れていた。
そう、まさにここがみそなのよね。
久美さんが殺ったのでなければ、まさにこれは密室殺人。
そしてこの密室殺人の謎を解く鍵は、縦に移動させていた拷問器具を動かした形跡。
つまり何故拷問器具を引きずった跡が強く残っているのか?
答えは明白!
拷問器具と部屋の壁との間に空間を作り出す為よ。
犯人は恐らく陽子さんをアイアンメイデンで殺した後に、私達が踏み込んできたのを知って慌てて空間を作ってそこに隠れた?
で。
久美さんをあらかじめ眠らせておき、私達の目を久美さんに釘付けにしておいて、その隙に廊下へ?
そして機を見て壁へと拷問器具を押し戻した?
…。
うーん、どう考えても無理がある。
それにまず、あの歌よ。
この屋敷に、機械的に人を眠らせたりするような妖しげなものはない。
という事は、人間以外の妖の能力によって生み出されたものと考える他はない。
それにアイアンメイデンによって殺された陽子さん。
あんな無惨な殺され方をしているのに、絶叫一つなかった。
多田さんの絶叫はあんなにもはっきりと聞こえたのに?
それも、あの聞こえてきた歌に隠された能力なのかしら?
でも待って?
私達が久美さんに釘付けになっている時に、不意に廊下側から声をかけてきた人がいたわよね?
あれは確か、アマーリエさんだった。
もしもあの空間に隠れていたのがアマーリエさんなら、出てきて私達と話をしながら隙を見て拷問器具を押し戻す事も不可能じゃない。
それなら短期間で証拠を隠滅する事も出来るわ。
なんだか考えれば考える程にアマーリエさんが怪しくなってきちゃう。
でも私はそれを否定したい。
あのアマーリエに限って…。
うーん、なんか今いち真相にまで届かない。
と私はここで、もう一度第二の犯行が行われた応接室に向かった。
廊下側から穴が開く程に飾り窓を見ていたけど、やっぱりわかんない。
スペアキーを使わず、どうやって川島氏の殺害をやってのけたのか?
中へ入ってみると、やっぱりオーディン…じゃなかった、ポセイドンの甲冑が目立つわよねぇ。
いけないいけない。
今は芸術鑑賞なんかしている場合じゃないんだから。
と軽く首を横に振った私は、もう一度、川島氏の死体を注意深く見た。
そして、そこから一つの疑問が生まれた。
首筋には2本の咬み傷。
でもどう考えてもおかしいのよ!
吸血鬼の牙って基本的には動物の牙な訳なの。
動物の牙って肉に深く食い込ませる為に、牙は垂直ではなく湾曲しているのよ。
そう、日本刀の刃先のようにね?
でも川島氏の咬み傷はどう見ても垂直に刺された感じなの。
という事は、これは咬み傷ではなく刺し傷?
でも川島氏の体には微弱の血液しか残されていない。
「どういう事かしら?」
とここで、私はポセイドンの甲冑に目をやった。
何故か一瞬、甘い匂いを嗅いだような気がしたからなんだけど。
ポセイドンの甲冑から、僅かに。
本当に僅かなんだけど血の匂いがする!
ここに真相が隠されている気がする。
私は匂いを敏感にして、重点的にポセイドンの甲冑を嗅いでいくと…。
どうもその匂いはポセイドンの甲冑本体ではなく、ポセイドンがしっかりと握っている三叉の鉾から匂っている。
待ってよ?
もしも三叉の鉾が私の想像通りなら…。
私は注意深く三叉の鉾を調べてみた。
果たして三叉の鉾の切っ先には小さな穴が開いていたのだ。
そして鉾の底にも穴があり、試しにそこから息を吐いてみた。
すると鉾の内部に残っていた川島氏の僅かな血が切っ先から噴き出てきた。
「殺害に使用されたのは、この鉾で間違いないわね。」
残念だわ。
このポセイドンの甲冑はアマーリエさんが祖先から代々宝として残されてきたもの。
この甲冑にこんな秘密がある事を知っている人なんて、アマーリエさん以外には考えられない。
でもここまで来ると、どうしても知る必要に迫られるのがアマーリエさんの吸血種族。
それを見破らないと、トリックも解けないし決定的な証拠にも繋がらない。
それに動機も…。




