第一章<第二の犯行>
…。
どれぐらい私は眠っていたんだろう…。
不意に意識を取り戻した私は、パッと辺りを窺った。
先の事件で、同じパターンで殺人が行われただけに、言い知れない緊張感が私を包む。
見れば、メイドさん達や涼子さん、アマーリエさんも未だ眠っているようだ。
この状況下でまず疑うのは、いれて貰った珈琲でしょ。
でもね。
人間ならともかく、私みたいな嗅覚の効く吸血鬼なら異物や異臭にはすぐに気がつく。
よって睡眠薬の類では断じてない!
考えられる事はただ一つ。
あの歌よ。
おそらくあの歌には催眠効果があるのだろう。
いや、それですら歌の力に付随する一つでしかないのかもしれない。
とここで、私はまたも血の匂いを感じた。
とにかくこのままじゃ埒があかないわよね。
「アマーリエさん、涼子さん、メイドの皆さん、起きて!」
と叫んでみたものの、なかなか目を覚ましてくれない。
そこで私は、やむを得ず耳元で怒鳴ってみせた。
「火事だぁぁぁーっ!」
これには流石の皆さんも、慌てた。
「ええっ、火事ですってぇ?」
まずまっさきに起きたのは涼子さんだった。
「まぁまぁ、どうしましょう!」
アマーリエさんなんか、起きてすぐにパニックに陥ってしまった。
「どこどこ?」
「救急車救急車!」
「違うわよ、消防車でしょ!」
あっちゃぁ~っ、ちょっとやりすぎちゃったかしら?
もう皆パニックになって今更嘘だなんて言えない雰囲気…。
やがてパニックが治まると、その視線は私に一極集中していった。
ううっ、気まずい。
でも状況が状況だし、話せばわかってくれると思うのよね。
という事で…。
私は勇気を持ってカミングアウトする事にした。
「嘘です、ごめんなさい。
皆さんを大至急起こす必要があったので。」
あぁ、痛い痛い。
痛い視線はやめてぇ。
「刑事さん、何があったのかはわからないけど言って良い嘘と悪い嘘があるのは御存じよね?」
うわぁ、あの温厚なアマーリエさんを怒らせちゃったぁ。
「ちょっと刑事さんサイテー!」
涼子さん…。
「皆さんを起こすのに火事なんて叫んじゃったのは謝るわ。
でも今はそんな事を言っている場合じゃないのよ。」
私の深刻な顔に、皆はそれぞれ顔を見合わせた。
「血の匂いよ。
今度は何故か、その匂いが微かなの。
でもこの匂いは静脈系の匂いじゃなく、明らかに動脈の血の匂い。
だから皆を起こす必要があったの。」
私の声で顔面蒼白になったのはアマーリエさんだった。
今や屋敷にいる人間[吸血鬼含む]は、川島氏を除いて皆ここにいたから。
「あなた!」
髪を振り乱して部屋を後にするアマーリエさんを追い掛けて私達も一路、寝室に向かう。
が、寝室に川島氏はいなかった。
「あなた、ここにいるんでしょ?
早く開けてよ!」
アマーリエさんは応接室の前で、絶叫していた。
「アマーリエさん、お気持ちはわかりますが一旦離れて下さい。
涼子さんスペアキーを持ってきて、大至急で!」
私はともかく、錯乱したアマーリエさんを落ちつかせる事に終始しようと思ったんだけど。
しかしアマーリエさんは唇を震わせ、その瞳は泳いでいるように見える。
「刑事さん、持ってきたわよ!」
息も絶え絶えになりながら、涼子さんが必死になってスペアキーをくれた。
「皆さん、離れて下さい。
まだ川島さんが死んだと決まった訳じゃありませんし、例えそうであったとしても現場保存をする必要があるので!」
しかしそんな私の発言に、アマーリエさんは取り乱しながら訴えてきた。
「ちょっと、そんな縁起でもない事を言わないでちょうだい!
早く!
早く開けなさいよ!」
まぁ状況が状況だし錯乱する気持ちもわからないではないんだけどね。
って!
「おやめ下さい、ここを開けるのは私がやりますから!」
でもアマーリエさんは私の意見には耳も貸さずに私からスペアキーを奪うと、勝手に応接室を開けた。
「いやぁぁぁ、あなたぁーっ!」
応接室で待っていた光景は、ソファーに横たわったまま息絶えている川島氏の殺害現場だった。
遺体を見ると、川島氏の首筋からは二つの穴が開いている。
その穴からは微かに血が垂れていた。
これは、吸血?
でも窓はしっかりと閉ざされているわよね。
私達が踏み入った時には廊下側の扉は閉ざされていた。
って事は…、またしても密室殺人?
でも私達が眠っていた時に殺人が行われ、その後にスペアキーを使えば誰でも犯行は可能なはず。
いけない、吸血と断定するのはまだ早計よね。
第一、吸血鬼は私とアマーリエさんしか…。
ううん、それもわからない。
メイドさん達が全員人間という保証もないし。
でも内部の犯行なのは間違いない。




