第一章<再びの歌>
川島夫妻の寝室を出ると、何故かアマーリエさんが私についてきていた。
「アマーリエさん、どうしたんですか?」
するとアマーリエさんはにこにこ笑いながら、螺旋階段の1階を指さした。
「ブランデーのせいかしら?
高次さんったらすぐに眠りについてしまって。
少し所在がないからメイド達と軽く深夜のティータイムでもと思ったの。
宜しければ刑事さんも御一緒しませんか?」
あぁっ。
なんてマリア様のような、柔和な微笑みなんだろう…。
「えっと、短時間でしたらお付き合いさせて頂きます。」
今は調査中だし、断ろうかとも思ったんだけどね。
まぁでも人間[吸血鬼]、息抜きも必要よねぇ。
などと思ってしまい、断りきれなかった。
私って本当に流されやすいなぁ…。
とか思いながらも、本当は涼子さんの事が気にかかっていたのもあったのよ。
彼女、怒ってないかなぁ?
などと憂慮していたんだけど、どうやら杞憂のようだった。
1階に降りてきた私達を見て、ロビーにいたメイドさん達はうやうやしく一礼をし、涼子さんは私を見ると、笑って手を振ってくれた。
「どう?
調査は進んでる?」
涼子さんは耳元で、興味津津に囁いてきた。
「えっと。
ごめんね、涼子さん。
シークレットって事で許して?」
と私は曖昧に答えたんだけど、涼子さんはつまらなさそうにそっぽを向いた。
だって、しょうがないじゃないのよぉ。
まだ誰が犯人かわからないのに、変な情報を流す訳にもいかないし…。
「涼子さん、刑事さんが困ってらっしゃるじゃないの。」
あぁ、救いの女神。
アマーリエさんが涼子さんの額を優しく小突くと、涼子さんもちぇっとか言いながら、私にウインクしてきた。
やっぱアマーリエさん良い人[吸血鬼]だ、うんうん。
「さぁ、こちらのお部屋ですよ。」
アマーリエさんが部屋の扉を開けてくれ、中に入ると2階の応接室とはまた違う、ゆったりとくつろげる応接室があった。
「ここは私達メイドが待機したり休憩したりする寛ぎの場所なの。」
へぇ。
まぁ2階みたいに豪勢じゃないけど、それでも会社の応接間ぐらいの落ち着いた部屋みたい。
涼子さんが言うに、食事もここでとっているらしい。
「刑事さん。
いろいろお疲れでしょうし、根詰めていらっしゃるから休憩でもと思いまして。」
あぁ、アマーリエさんの御好意に私は嬉しくなって思わず抱きしめてしまいそうになった。
「あの刑事さん。
やっぱ私は好きになれないなぁ。」
涼子さん、まだ春樹の事言ってる。
「久美さんを犯人扱いしてるって点では、私も春樹が許せないんだけどね。
でもあぁ見えて、良い所もある…はず?」
あはは。
考えてみたら私って春樹の美点をあげれないや。
美形のイケメン?
中性的で可愛らしい容姿?
ん~、どれも外見ばっかだよねぇ。
などと私は話に華を咲かせていたんだけど…。
次第に…。
意識が薄れていくのをこらえきれなくなっていた。
おかしい…。
夜が得意な吸血鬼の私が…。
何故…?
見れば、涼子さんも他のメイドの皆もアマーリエさんも眠りについていた。
薄れゆく意識の中、私は再びあの忌まわしい歌を聞いた。
そう…、あの人間には聞きとる事の出来ない高周波の歌…だ。




