第一章<追跡調査>
私は屋敷に戻ってから、もう一度状況を整理してみる事にした。
「えっと。
確か私はここで眠っていて、そして強烈な血の匂いで目覚めた…んだけど。」
でも何かがひっかかってる。
でもそれがなんなのかが思い出せない。
そう。
私は血の匂いに目覚める刹那、何かを聞いたような気がするのだ。
それは多分、人間では聞き取れないような何か…。
まるでモスキート音のような微弱な高周波のような…。
…。
思い出した!
あれは多分、歌だわ。
でも人間では聞き取れないような高周波の歌なんて一体誰が?
それとも機械によって作り出された歌?
っていうか、なんの為に?
そもそも、事件とは直接何も関係がないんじゃ?
う~ん。
とりあえず置いといて事件現場に行ってみようかしら。
私が貸し与えられていた部屋から出ると、涼子さんが待っていた。
「美紅さん、私悔しいのよ。
ひょっとしたら私でも力になれる事もあるかもしれないし、ご一緒してもいい?」
涼子さんの申し出は正直、有り難い。
でも犯人がまだわからない以上、疑いたくはないけど涼子さんが犯人だって可能性もゼロではない。
検証の過程で私が真犯人を突き止めた場合、隙をついて私を口封じに出る事も考慮に入れなければならないのよね。
「ごめんなさい涼子さん。
気持ちはとっても嬉しいけど、これは殺人事件であり、刑事である私の仕事なのよ。
だから一般人である貴女の力を借りる事は出来ないの。」
私は努めて諭すように言ったのだけれど、涼子さんは瞳を曇らせて何も言わず一礼だけして、その場から去って行った。
「ごめんね、涼子さん。」
やっぱ傷つけちゃったかな?
ちょっと心が痛んだけれど、でも状況が状況だけに妥協は出来なかった。
2階…
螺旋階段を上って私は再度、事件現場の検証を行う事にした。
「うわっ、やっぱり強烈ね。」
部屋に入ると、事件発生当時よりも心地よい血の匂いが充満し、その甘い匂いに思わず私は酔いしれてしまいそうになった。
多分若干の時間が経過して、血中の水分が蒸発してしまっていたからかもしれない。
私は陽子さんの遺骸に両手を添えて一礼すると、なるべく丁寧にその遺骸を調べてみた。
そして殺害凶器であるアイアンメイデンを調べ、間違いなく殺人はここで行われたのだと断定した。
アイアンメイデンにある無数の剣のような鋭い針と、陽子さんの遺骸とを見比べ、ついた傷、そしてその血を舌で分析した結果、これが陽子さんのものであると分かったからだ。
因みに、基本的に吸血鬼が人間の血を吸う事は許されていない。
何故なら吸血鬼の呪われた性が呼び起されてしまうからである。
しかし私は刑事になる時に、それを克服する厳しい修行を受けている。
よってアブジー所属の吸血鬼だけが例外として事件解決の為に必要な時に限定して、舌で血を舐める事を特例として吸血鬼世界連合政府によって許されているのよ。
「あら?」
いろいろ調べているうちに、不可解な事実に私は気付いてしまった。
それは、わずかだが拷問器具の一部に移動させた形跡があった事である。
フローリングの床に、わずかだが引きずったり押し戻したりした痕跡がある。
「川島氏、配置が気に入らなくて配置変換でもしたのかしら?」
でもそれにしては妙なのよ。
引きずった後よりも、押し戻した後の方が、くっきりと痕跡が残っているもの。
引きずって移動させた時は丁寧に、そして押し戻した時は強引に。
っていうか、横移動の形跡はなく、縦移動の形跡だけが残っている事に私は疑問をもった。
拷問器具の配置を移動させるなら、当然全体的に移動させるんだから、もっと痕跡が残っているはずだし、それに縦に移動させて配置変換する必要がそもそもあるのだろうか?
これは…。
ひょっとしたら私、事件の尻尾を握る事に成功したんじゃないかしら。
「もう少し、ここを調べてみる価値がありそうね。」
と私が呟いた時、突然どこからか川島氏の絶叫が響き渡った。
「ぎゃあぁぁぁぁ!」
まさか、今度は本当に川島さん?
でも川島さんは今は傍にアマーリエさんがついているはず。
待って、万が一アマーリエさんが…。
いや、あんな愛し合っている2人に限って…。
と思って緊迫して2階にあるお2人の寝室に行ってみれば…。
「アマーリエ、鼓膜が破れたらどうするんだ!」
はぁ…。
春樹じゃないけど、思わず私は深い溜め息をついた。
「あなた、ごめんなさい。
奥にデカいのがありましたもので。」
こっちが緊迫してるっていうのに、膝枕で耳掃除かい!
と思わずどつきたくなる所だった。
「あぁ、調査中にすまないな。」
川島氏に続き、アマーリエさんも詫びた。
「美紅さん、ごめんなさいね。」
ったく紛らわしい。
ま、微笑ましくて良いんだけどね。
「ただいま事件を追跡調査中ですので、失礼しますね。」
ちょっとムカってきたけど2人の微笑ましい姿に免じて、私は忘れる事にした。
それに、お2人の微笑ましい姿を見て、ちょっと嬉しくもあったのだ。




