第一章<睡眠から惨劇の舞台へ>
「美紅様はこちらのお部屋でお休み下さい。」
久美さんに案内して貰ったお部屋を見て、私はまたも感動した。
そして隣にいた春樹も思わず目を丸くしていた。
だってだってぇ、ここってお姫様のお部屋みたいなんだもの。
まず目を引くのが天蓋ベッド!
ひらひらのカーテンがまたピンク色で可愛いの。
あぁ、こんなお部屋で寝ていたら、夢の世界に浸ってしまうわ。
それに家具もテーブルも化粧台も、全てがロココ調を基調とした華麗なものばかり。
「おいおい、本当にこんな分不相応な部屋をこいつに提供していいのか?
翌朝、こいつの寝ぞうの悪さでカーテンが破れていたり家具が汚れたり壊れていても知らんぞ?」
しっつれいね!
私そんなに寝ぞう悪くないわよ。
まぁ、確かに今までイトリで購入した棺桶ベッドでしか寝た事ないけどね。
それにそそっかしい所も確かにあるかもだけど…。
いけないいけない、思わず春樹の暴言を肯定してしまう所だった。
「いろいろ言いたいけど、とりあえず分不相応っていうのは取り消して貰うわよ?
私ってこう見えても実家は旧華族って家柄なんだからね。
「あぁ、過去の栄光に固執している一族のなれのはてだな。」
っとうに腹の立つ!
「もういいから出て行ってよね。
私、今から寝るんだから。」
と言って私は春樹を部屋から追い出した。
するとまたしても春樹は捨て台詞を吐いていった。
「どうでもいいが、明日からは本腰を入れて捜査に入るんだ。
寝坊したら速攻で叩き起こしに来るからな!」
あぁもう、しつっこい!
「なによ春樹。
そんなに私に夜這いしたいの?」
と言ってやったら春樹は高笑いをし、次第に声が遠のいていった。
深夜12時…
私は不意に鼻孔に入ってくる強烈な匂いで目を覚ました。
「この匂い…、この匂いは!」
そう、明らかに人工血液とは違う新鮮で甘い匂い。
思わず陶酔してしまいそうな程の狂わしい匂いは間違いなく人の血。
それもこんなに強烈に匂い立つのだから、相当な血の量のはず。
私は思わずベッドから飛び起きた。
「ぎゃあぁぁぁぁーっ!
うわっうわっうわぁぁぁぁーっ!」
気が動転していて、まさに半狂乱になった声。
この声の主は、おそらく庭師の多田さんの声だ。
事件…。
それもおそらく残忍な殺され方をした殺人事件だと断定した私は、とりあえず手近にあったバスローブをパジャマの上から羽織って部屋から飛び出した。
廊下で春樹と合流した私達は多田さんの声が二階から聞こえてきたので、慌てて二階へと駆け上がった。
二階の踊り場を曲がって奥へ進むと、多田さんは声にならない声で恐怖に震えあがっていた。
「ここは、川島氏自慢の拷問器具コレクションのある部屋じゃないのか?」
春樹の問いに多田さんは恐る恐る頷くと、扉の下方を指さした。
見ると室内からあふれ出た血が床一面に広がって、血だまりを作っていた。
「きゃあぁぁぁ!」
騒ぎを聞きつけたメイドの1人が床一面に広がる血だまりを見て、そのまま失神してしまった。
「多田さん、とにかく今から内部を調べます。
現場保存の為、ここには誰も近づけさせないで下さいね。」
と私が言うと、多田さんはうんうん頷いて、よろよろと力なく立ちあがったかと思えば、脱兎のごとくその場から立ち去った。
まぁね。
こんな惨状みたら誰だってこうなるわよ。
「扉に鍵がかかっている。
こうなったら体当たりで扉をぶち破るか!」
少々乱暴ではあるが、今は緊急を要する事態なのでやむを得ないわよね。
「ちょっと待ちなさい!」
私達が踊り場側の廊下を振り向くと、川島氏が鍵を持って姿を現した。
そしてその隣には多田さんの姿もあった。
どうやら多田さんは、この事変を川島氏に伝えにいっていたようだ。
「鍵を持ってきて頂いた事には感謝しますが現場保存の為、入室は僕とこいつの二人以外は御遠慮願いたいのですが。」
しかし川島氏は春樹の言葉をつっぱねた。
「ここは私の私邸だぞ?
ここで何があったか私には知る権利がある。
認めないと言うなら、この部屋への入室は許さん!」
はぁぁ~っ。
春樹は深い深い溜め息をついたが、緊急事態に問答をしている余裕もないので、短く条件をつけて同行を許す事にした。
「わかりました。
ただし、やたらに内部のものに接触するのはやめてください。」
春樹の条件に川島氏は苛々しているみたいだったが、川島氏は短く頷いた。




