第一章<アイアンメイデン>
さらに棺から流れた処女の血は、管を通してバスタブへと注ぎ込まれる仕組みだったという説もある。
犠牲者が死んだ後に棺の扉を開けると棺の床が抜けて死体は水で城の外に流されるようになっており、その為の水路には刃物が設置されていたので、死体が城外に出る頃には原型をとどめていなかったという。
ただしこれはあくまでも風説、噂の域を出ていない話なので、実在を示した証拠は何もないというのが吸血鬼世界連合歴史資料館での見解だったはずなのだ。
でも、やはりこれは実在していたんだ。
「これは君ならば必ず興味を示すだろうと思っていたよ。
良かったら中も見てみるかい?
吸血鬼は不死身なんだし、中に入って体験してみても構わないよ?」
冗談っ!
吸血鬼は不死身っていうのは、とんだ偏見だわ。
そりゃ確かに不死身な吸血鬼もいるわよ?
真祖の貴族とかなら、ね。
でも普通、ごく一般人は皆、真祖じゃなくって使徒なんだからぁ。
使徒は不死身じゃなくって不死なだけ。
つまりアンデットでも肉体が激しく損傷したらゾンビに成り下がるのよね。
ましてや!
私達一族はアンデットじゃなくって生きてるんだから!
寿命だってあるし、体の再生もある程度なら出来るけど、度を越した損傷をしたら死ぬんだから。
と、ここで力説しても詮無い事なので、私は中に入るのは丁重にお断り申し上げた。
「まぁ私自慢のコレクションを堪能して頂けた事ですし、今夜はこのままお泊り頂いて明日から本格的に捜査に入って頂きましょうか。」
はぁ~っ。
聞こえた聞こえた。
そりゃ溜め息もつきたくなるでしょうね。
今回の溜め息には私も春樹に同意した。
だって事情聴取のために川島氏を探してたのに、いざとなったら悪趣味なコレクション自慢の講義よ?
まったく…。
この人、命を狙われてる…、かはわかんないけどストーキングされてるって自覚あるのかしら?
それでなくても食堂ではあんな取り乱したりしてたのに。
ひょっとして本当に私達を用心棒のつもりだとか思っているのだろうか?
だとしたらそんなの本当に願い下げだから。
「わかりました。
では今日の所は川島さんの御好意に甘えさせて頂くとしましょうか。」
え?
ええっ!?
嘘うそっっ!
だってあの春樹が折れるだなんて。
ちょっとその展開は想像してなかったわよ。
と、私は驚きを隠せないでいたが、それに気付いた春樹は私に目配せをした。
という事は、恐らく何か考えがあっての事だろう。
ともかくも、私達はそこで川島氏に一礼して部屋を後にした。
すると、部屋の外では久美さんがタイミングよく廊下で待っていた。
どうやら川島氏にあらかじめ来客用寝室へと案内するよう、言われていたみたい。
「お疲れ様でした。
御主人様のコレクター自慢と講義は大変でしたでしょ?」
そういって久美さんはペロっと舌を出してみせた。
あぁ、やっぱ久美さん可愛いなぁ…。
「あのくそ中年め、いい加減にしろよ。」
あちゃ、何も久美さんの前で言う事ないのに。
とか思いながらも私も思いは同じであった。
「なんだか本当に申し訳ありません。」
久美さんは自分が悪い訳でもないのに、深々と頭を下げた。
「あぁ、久美さん。
私達は大丈夫だから、そんな気を使わないで?
ほぉら、春樹も!
別に久美さんが悪い訳じゃないんだから、そんな仏頂面しないの!」
と私が窘めると、その矛先が今度は私の所にきた。
「だいたい、お前が一番悪いんだよ、アホぅが!
お前が呑気に風呂なんぞ入ったりするから、こんな時間まで拘束される羽目になったんだからな。」
はいはい。
私が悪ぅござんしたよ!
と、思わず言葉にせずにイ~ッだ!ってやったら、春樹の容赦のない拳骨をくらってしまった。
私が女だって思ってないわよねぇ、春樹って絶対!
「うふふっ。
どつき漫才だなんて、本当お2人って御夫婦みたい。」
そんな艶やかに笑わないでよ、久美さんったらぁ。
「冗談ではない、俺にだって選ぶ権利というものがある。」
むむむ、むっかぁ!
「私だってねぇ、春樹みたいな性格悪い男を旦那にする気はないんだからぁ。」
思わず睨みあいになってたんだけど、久美さんがおどおどしていたので大人な私から均衡状態を解いた。




