第一章<口論>
とりあえずお風呂からあがった私達はロビーに向かう事にした。
幾人かのメイドさん達がロビーにいたからである。
他人の家を勝手に物色する訳にもいかないし捜査令状が出ている訳でもないので、そこら辺は気を回す必要があるからね。
で、ロビーに向かった私達が見たのは久美さんと陽子さんが口論をしている所だった。
「一体何度言えばわかるのよ、あたしはあんた達一般のメイドとは違うの!
川島 高次専属の、いわば特別にその存在を許されたメイドなの。」
見れば捲し立てているのは陽子さんの方だ。
「しかし私はメイド全般の管理と統率を任された者。
あなたが御主人様にとって特別な存在であろうと、最低限メイドとしてやるべき事はやって頂きたい、仕事をして頂きたいと言っているだけですから。」
なるほどぉ。
察するに陽子さんは自分が特別な存在だから皆と一緒になって仕事をする必要がないと。
で、久美さんはそれじゃあ皆に示しがつかないから、せめて最低限の仕事だけでもやって欲しいって言っている訳ね。
私は別に贔屓めに見て久美さんの味方をしたいとは思わないけど、この口論は明らかに久美さんの言っている事の方が正しいと思う。
って思っていると、いつの間にか隣にきた涼子さんが私に耳打ちをした。
「あの人いつもあの調子なんですよ。
本当にもう自分がどれだけ特別だって言うのよ。
やっぱあの人、御主人様とデきてるんじゃないの?
そういう噂もあるから。」
そうなんだ。
だから特別って事?
でももしそうならアマーリエさんの気持ちと立場はどうなるのよ。
って考えると、私も口論の場に参戦しようかと思ったが、すかさずそれを春樹に窘められた。
「おい、わかっていると思うが他人の領域に勝手に入り込んだりするなよ?
俺達の本分は言わなくてもわかっているよな。
お前はこの家の痴話喧嘩なんぞ気にする必要もないし、してはならない。
っていうか、そんな暇があるなら早期にストーカー問題解決の糸口でも考えてろ!」
むぅぅ、悔しいけど春樹の言い分のが正しい。
すると、騒動を聞きつけたのか、不意に2階から川島 高次氏がロビーへと降りてきた。
「何事かね。
騒々しいしみっともない!
良い歳をした妙齢の女性がいがみあっている口論なぞ聞きたくもない。」
川島氏の声に2人は顔を見合わせ、そしてお互いに何を言うでもなく、ツンとしたまま久美さんと陽子さんは反対方向へと立ち去っていった。
涼子さんはというと、私にペロっと可愛い舌を見せて、久美さんに続いた。
「やぁ、お二人さん。
随分と我が家のみっともない所を見せてしまったね。
あぁ、そうそう。
うちの風呂はいかがでしたかな?」
なにを呑気な。
そもそも事の発端は川島さん、貴方に起因しているんでしょうが!
だいたい陽子さんが特別って何よ?
アマーリエさんの気持ちも考えてあげなさいよ。
とか、一瞬いろいろな言葉が浮かんだが、春樹に言われてた言葉を思い出した私は、慌てて喉にまで出た言葉を飲みこんだ。
「ええ。
とても素晴らしい贅をこらした絢爛なプライベートバスで最高でした。」
と私が言うと、春樹はほぉ~っ?と私に冷たい視線を送った。
なによなによぅ。
だって春樹と差別化したのは私が決めた訳でもないし、私のせいじゃないでしょ?
と思わず抗議の視線で応酬してみた。
「君が入ったプライベートバスは、この家自慢の1つでね。
お気に召したようでよかった。
ついでに私のコレクションも良かったら見ていかれますかな?」
えっと、どうしよう。
ここで川島氏の機嫌を悪くしてもその後の展開がやりづらいのかなぁ?
でもでも、春樹は多分、そんな事に付き合うぐらいなら他にやるべき事があるだろう!とか言って怒りそうだしなぁ。
あぁ、これって板挟みってやつ?
どうせなら一度ぐらい恋の板挟みでも味わってみたいなぁ。
などと思っていると、いつもは寡黙な春樹から、意外な発言をした。
「興味がありますね。
もし宜しければ僕も同行したいのですが、いいですか?」
え?
ええっ?
春樹、今なんて言ったの?
私は春樹からそんな言葉が出てくるなんて予想だにしなかったので、正直びっくりした。
後で春樹から真相を聞いてみるとしよう。
「おぉ、君も来るかい?
構わん構わん、是非見ていかれるといい。」
春樹が予想外な事を言ったので、川島氏も機嫌をよくしているみたい。
コレクター部屋は2階にあるらしく、私達は川島氏に続いて2階へとあがった。
奥へ進むと、向かって左に応接室があり、どうやらコレクター部屋は正面の部屋みたい。
例の、逆方向につけられた扉の部屋ね。




