第一章<晩餐2>
むっかぁ。
思わず私が大声で春樹をなじろうとしてるのに、春樹は私の口を手で塞ぎ、さらに話を続けた。
「見てみろ。
ここの洋館の作りは基本的に室外に向かって扉が開くようになっている。
なのに応接室の扉は室内に向かって扉が開くようになっているだろ?
さらに正面の扉も取っ手の部分が応接室と同じ左側についている。
つまり室内に向かって扉が開くシステムだ。
不自然だとは思わないか?」
確かに。
他の2階のどの扉も取っ手は右についているし、1階の各部屋もそうだった。
なのに応接室と廊下を挟んで正面の扉だけが違うのは確かに不自然。
そんな私達の会話を聞いたアマーリエさんが、謎解きをした。
「あ、お気づきになられました?
ここと応接室の扉は、古くなって建付けが悪くなっていたので後から交換したものですのよ。
でもその際に業者さんが言うには、このタイプの扉は貴重なものらしくて、現存するのは逆向きのタイプの扉しかないと仰って。
やむを得ず2つの扉は逆向きになってしまったの。」
あぁ、成る程ねぇ。
と私は納得したのだけれど春樹はまだ納得出来ないらしく、黙って首を傾げながら何やらブツクサと呟いていた。
とりあえず、さ。
春樹ったら考え込んでいる合間にも私の口を抑え込んだままなんだけど。
やだ。
なんかこういうシチュエーションってドキドキするじゃないのよ。
ってちょっと浸っていたのに、ようやくそれに気付いた春樹は、全く悪びれる事もなく無造作に私の唇から手を離して、何もなかったかのようにアマーリエさんに続いて歩き始めた。
なによぉ、春樹のくせに。
と私は刹那の妄想に浸った自分を恥じることにした。
長い廊下を歩き終えると、右手に1階へと続くさっきの螺旋階段が見えてきた。
その正面には大きくて華美な装飾を施した扉が目に付いた。
アマーリエさんはその扉を開き、私達を丁重に中へと手招きすると、中は絢爛豪華な食堂になっていて、私達はまたも度肝を抜かれてしまう。
「きゃ~っ!
凄い凄い、これぞまさにベルばらの世界みたいじゃなぁ~い。」
食堂は円卓になっていて、年代物のテーブルの上からは、さらに美しいフランスのブルボン王朝時代に使用されていたロココ調のレースが敷かれていて[アマーリエさんから聞いたの]、円卓の中央の天井には、これまた素晴らしいシャンデリアが私達を照らしていた。
しかしそんな世界観に浸りたい私を、春樹はいつも厳しい一言で現実に連れ戻すのである。
「だからお前は御し難いんだよ。
いちいちつまらん事で感動する前に、俺達にはやらねばならん仕事があるだろうが。
そんな暇があるなら少しは知恵を使え、このアホぅが。」
しかし私は春樹の讒言に耳を貸すつもりなんかこれっぽっちもなかった。
私の実家は勿論、贅を尽くした邸宅ではあるんだけど、純和風の作りだったので洋館の、それも外観に見合う今の風情は私にとっては憧れ以外の何物でもなかったからである。
ふと視線を周囲に向けると、壁際には久美さんと陽子さんをはじめとするメイドさん達がいた。
そして私の視線に気づいた久美さんが笑顔で小さく手を振ってくれたので、私も思わず嬉しくなって手を振った。
あぁ、やっぱ久美さん好きだなぁ。
一方、陽子さんはというと、春樹の姿を認めてからは不愉快な顔をしながら、私と目が合った途端にツーンと澄まし顔をして私達を徹底無視する方策に出た。
一体私が何をしたっていうのよぉ。
しくしく。
などと嘆いても仕方がないので私は席につくと、代わりに春樹を憎々しげに見上げる事にした。
で、春樹は我かんせずという顔で私の隣に着席した。
こ、こぉの男だけわぁ…。
後から食堂に姿を現した川島 高次氏もアマーリエさんに続いて仲良く上座に着席した。
後で聞いたんだけど、庭師の多田さんや久美さん達メイドさん。
それに料理長さん達、使用人の方々って食事は私達の後に別室で細々と食事をとるらしいの。
なんだかそれ聞いたら、ちょっと申し訳ない気持ちと、差別してるみたいな不公平感を感じずにはいられなかったのだけれど。
でもそういう仕事なんだって久美さんは笑っていたので、私は納得する事にしたの。
食事が終わると場を和まそうと思ったからか、アマーリエさんは不意に口火をきった。
「うちの食事はいかがでしたか?
お口にあっていれば宜しいのですが。」
私とアマーリエさんは人工血液をスープ皿に盛られて、少し違和感を覚えずにはいられなかったのだが。
それに人工血液なんて大量生産な訳だし、味って言われても…。
とか答えに窮していたのだが、アマーリエさんの視線に、どうやら返答を求めていたのが春樹の方だとわかり、私は少しホッとしていた。
「ええ、美味でしたよ。
まぁ僕は洋食はあまり食べ慣れてはいませんから、具体的な表現を求められても答えに窮しますが。」
へぇ。
春樹にしては予想していたより指し障りのない、まともな返答じゃない。
失礼な言い方をしたら、すぐにフォローしなきゃって思ってたけど、安心した。
と思ったら、次にアマーリエさんはとんでもない事を言い出した。




