第二章 EP12番外編 連れていかれるヤス
パトカーの後部座席で、ヤスは静かに座っていた。
静かに座ってはいたが、納得しているわけではなかった。
淡路へ向かう理由は分かっている。
旅館・ニュー・ヤスダ爆破現場に残されていた小さな鞄。
そこから、真野ヤスヒロの指紋が出た。
持ち上げただけだった。
ただ、それを言うと、ボスは必ずこう言う。
触るなと言った。
だからヤスは、今は黙っていた。
パトカーは神戸を出て、淡路方面へ向かっている。
窓の外には、夜の道路が流れていた。
ヤス「あの、すみません」
前の席にいた淡路の刑事が、バックミラー越しにヤスを見た。
淡路の刑事「何ですか」
ヤス「ラジオ、つけてもらっていいですか?」
淡路の刑事「……今から事情を聞かれる人間が、ラジオですか」
ヤス「緊張すると、耳が寂しくなるタイプで」
淡路の刑事は、少しだけため息をついた。
そして、ラジオのスイッチを入れた。
ざらついた音が、車内に流れる。
*
DJ・YASU「皆さんこんばんは。DJ・YASUでーす。シートベルトは正しく着用しましょう!」
DJ・YASU「今週も始まりました『ヤッスのヤスヤス・レーディオ!』」
ヤス「やっぱ、これ聞かないとね!僕はやってない!」
DJ・YASU「今週も色々お手紙頂いているので早速読んでいきましょう!」
「まずはラジオネーム、"今日はヤスみ"さんからです」
「コウゾウの屋敷ぶっ飛んだ時、ヤスとボスは危険でしたよね?」
「あのシーンは非常に危険でした!だからヤス田は電話したんでしょう!」
「おっと少々ネタバレしちゃったかーヤッスー!」
「続いてはラジオネーム、"ヤスード改もどき"さんからです」
「黒堂って便利すぎじゃねー?ヤスなんていらねーから黒堂雇えよ!」
「お叱りのお言葉頂きました。そうなんですよねー。ヤスっていらないんですよねw」
「ヤスさんも今頃反省してるんじゃないですかね?」
ヤス「ポンコツ、なのか。。」
DJ・YASU「続いてはラジオネーム、"俺の本名安田"さんからです」
「ヤス田刑事は爆破しすぎじゃない?その割にすぐ自首するなんてもったいない」
「またまたお叱りの言葉頂きました。きっと作者も後悔しているでしょうね……」
「誰が爆発物を作ったかとか謎は深まるばかりですが、謎のまま終わっていくのも勇気がいりますよー」
「続いてはラジオネーム、"ヤス大好き"さんからです」
ヤス「おっ!」
DJ・YASU「私はヤスが大好きです。あのポンコツすぎてポンコツなところが特に好きです。」
「そうなんですよね~ポンコツなヤス、何故かポンコツを好きになってしまう人っていますよねー」
「でも人間ポンコツでも、一つくらいいいとこもあると思いますよ!」
ヤス「……」
DJ・YASU「続いてはラジオネーム、"宿屋のヤス"さんからです」
「アヤスさんをホテルまで送ったあと、ゆうべはお楽しみでしたね?」
「というお便りですが、これは昭和どころか昔の家庭用ゲーム機時代の香りがしますねー」
ヤス「ボスも一緒に帰りましたよ」
DJ・YASU「本日最後!ラジオネーム、"猫のヤス"さんからです」
「にゃーにゃーにゃー」
「はい2036年なら猫語も翻訳できるんですね!つまり鞄から指紋って爆発後でも残るの?だそうです」
「指紋が残ってるって事にしないとヤス捕まるオチにならないでしょ!だから残ってたが正義なんです。」
「爆心地ど真ん中なら厳しいでしょうね!」
「でも今回は入口付近で焼け残ったんでしょう!」
「ヤスの為に!」
「あ、猫語でにゃーにゃーにゃー」
「まだまだ来てます。小宮の犯人に見せた具体的方法がわからないとか、2036年なのに昭和か!とか」
「色々来てますが、ラストソングいきましょう!」
「姫路市・安田からのリクエスト"ヤン・スイホー"さんから」
「本日も、有名な曲ですね。昔、魚に人生相談できるゲーム機のマイクで録音したとか」
「ゲーム機は残念ながら撤退しましたが」
「"安々亭オールスターズ feat. DJ・YASU"で」
『ヤスは橋を渡っている』
♪ ヤスい疑い 夜を越え (ぴーぽー)
♪ ヤスいサイレン 胸にくる (いたたたー)
♪ ヤスらぐ暇も ないままに (わわわわー)
♪ ヤスは後ろで 揺れている~
♪ ヤスく触れたら 残る指 (わわわわー)
♪ ヤスい鞄が 黙らない (わわっわー)
♪ ヤスを信じて ほしいのに (わわわわー)
♪ ヤスの言い訳 届か~ない~~
ヤス「もう消してもらっていいですか?」
淡路の刑事「もう少し、いい曲じゃないですか!」
♪ ヤスい名前で 海を越え (わわわわー)
♪ ヤスい疑惑が 淡路まで (ぴーぽー)
♪ ヤスらぐ橋の その上で (わわわわー)
♪ ヤスは静かに 橋を~こえ~る~~
♪ ヤスいこの歌 いらなくね~ (わわわわー)
♪ ヤスだけで ここまで見た人 (かいむー)
♪ ヤスいネタだけ 若者皆無 (おじさんー)
♪ ヤスも読者も ぶっ~~飛んでる~~
安々亭オールスターズ・語り「ああ、もう終わったかと思ってた。安心してた。いい加減にしてくれ。ヤス地獄」
♪ いいかげんに この歌やめろー (まだまだー)
♪ 猫の会話が わかるーならー (にゃにゃにゃにゃー)
♪ 犬のヤスは わからぬかー (それやねんー)
♪ ヤスの物語は まだ~つ~づ~く~~~
「それではまた来週!バイバイのバーイ!」
*
ヤスは、窓の外を見た。
橋の向こうに、淡路の灯りが見えている。
自分は刑事のはずだった。
それなのに、なぜかパトカーの後部座席にいる。
しかも、今回は無銭飲食ではない。
ヤス「成長したんでしょうか」
淡路の刑事「何がですか」
ヤス「捕まり方が」
淡路の刑事「成長ではないと思います」
*
その頃。
課長は、自宅の台所で妻に怒られていた。
妻「またヤスなの?」
課長「いや、今回は真野の方で……」
妻「どのヤスでも一緒!」
課長「一緒ではないんだが……」
課長は、反論をあきらめた。
事件より先に、家庭内の取調べが終わりそうになかった。
*
パトカーは、淡路へ入った。
ヤスは背筋を伸ばした。
事情を聞かれるだけ。
きっとそうだ。
たぶんそうだ。
そうであってほしい。
ヤス「僕じゃないですよ」
淡路の刑事「まだ何も聞いてません」
ヤス「先に言っておこうと思いまして」
淡路の刑事「それ、余計に怪しく聞こえます」
ヤスは黙った。
黙ると、また考えてしまう。
ヤス田。
兄さん。
旅館・ニュー・ヤスダ。
十年前。
第二章は終わった。
少なくとも、そう見えた。
けれど、終わったという言葉ほど、この事件では信用できなかった。
*
その頃。
ヤス田は、取調室の隅で目を閉じていた。
廊下の向こうから、誰かの足音が聞こえる。
近づいているのか、遠ざかっているのかは分からなかった。
十年前も、足音がしていた。
畳の上。
廊下。
階段。
そして、誰かが倒れる音。
父の声が、まだ耳の奥に残っている。
兄さんの声も。
ヤス田「……兄さん」
誰も答えなかった。
けれど、終わったはずの夜だけが、まだ終わっていなかった。
第二章 番外編02 完
*
ヤスード改「ここまでで、ようやく三分の二です」
次回、最終章!突入!第三章 EP01「ボスのいない署」。
ボスのいない署で、ヤスたちは解決したはずの事件の続きを見つけてしまいます。




