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第一章 幕間 三年後
三年後
2029年
東京
男は、警察官採用試験の会場にいた。
机の上には、鉛筆が一本。
消しゴムが一つ。
そして、やけに白い答案用紙が一枚。
男は鉛筆を手に取った。
先端を見つめる。
少し迷ってから、芯を舐めた。
小さい頃から芯を舐めるのが癖らしい。
隣の受験者が、こちらを見た。
男は何もなかったような顔で、前を向いた。
窓の外は、腹が立つほど良い天気だった。
試験官が言った。
「始めてください」
一斉に、紙をめくる音がした。
男も問題用紙を開いた。
第一問。
『警察官として最も大切だと思うことを述べなさい』
男は、鉛筆を握ったまま止まった。
最も大切なこと。
正義。
責任。
市民の安全。
法の遵守。
それらしい言葉はいくつも浮かんだ。
だが、隣の受験者がものすごい勢いで書き始めたのが気になって仕方がない。
男は、ほんの少しだけ横目で見た。
見えなかった。
もう少しだけ首を傾けた。
「そこ、前を向いてください」
試験官の声が飛んだ。
男は、背筋を伸ばした。
「……すみません」
会場が静かになる。
男は答案用紙に向き直った。
そして、最初の一文を書いた。
『もう、間違えない。』
書いてから、五秒ほど眺めた。
重い。
男は消しゴムで、その一文を消した。
それから、ありきたりな言葉を書き始めた。
『人々の安全を守り、社会に貢献したいからです。』




