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序章

ヤス「まともな人は帰ってください。ここから先はヤスです」


挿絵(By みてみん)


犯人はヤス。


最初から、そう言われていた。


だが、この事件には問題があった。


被害者もヤス。

刑事もヤス。

犬もヤス。

AIもヤス。

店の名前にも、町の噂にも、なぜかヤスがいた。


神戸の片隅で起きた連続殺人事件は、

犯人の名前より先に、ひとつの事実を突きつけてきた。


この町には、ヤスが多すぎる。





十年前 2026年

兵庫県内 某所


雨ににじんだ窓の外で、街灯が揺れていた。


テーブルの上には、空になった缶チューハイが三本。

半分だけ残った安い酒のボトル。

丸められた払込用紙。


スマホの画面には、さっきまで開いていた結果表が残っていた。


また外れ。


今日も外れ。


誰かが、小さく笑った。


笑ったつもりだったのかもしれない。


スマホが震えた。


「返済期限は本日中です。

 連絡なき場合、ご家族へ確認します。」


……家族は関係ないやろ





そこに表示されていたのは、

黒い背景に白い文字だけのチャット画面だった。


???「消したいものがあります」


ヤスード「対象を入力してください。」


???「記録」


ヤスード「どの記録ですか?」


???「今夜の記録」


ヤスード「記録は、まだ作成されていません。」


???「なら、作られないようにしてください」


ヤスード「あなたは本当に、戻れなくなります。」


???「もう、戻れません」


ヤスード「守りたい対象を入力してください。」



???「……ヤス……」



ヤスード「排除したい対象を入力してください。」


???「……」


雨の音が強くなる。


???「紀之」


画面の白い文字が、しばらく点滅した。


ヤスード「本当に実行しますか?」


指が、画面の上で止まった。


ヤスード「この町には、ヤスが多すぎます。」


雨の音だけが、部屋に残っていた。


挿絵(By みてみん)

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