第二章 EP04 Radio(レディオ)
コウゾウの屋敷を出ると、雨は少し弱くなっていた。
空はまだ暗い。
ボスは助手席に乗り込み、ヤスは車を園田方面へ走らせた。
ヤスは運転をしながら、しばらく黙っていた。
黙っているヤスは、少しだけ不気味だった。
ボス「何だ」
ヤス「まだ何も言ってませんよ」
ボス「言う前の顔をしている」
ヤス「僕、そんな顔してます?」
ボス「している」
車は花隈を抜け、広い道へ出た。
雨粒がフロントガラスの端へ流れていく。
ヤス「あ、ボス」
ボス「何だ」
ヤス「ラジオつけていいですか?」
ボス「好きにしろ」
ヤス「ありがとうございます」
ヤスは運転席から手を伸ばし、ラジオのスイッチを入れた。
ザーッというノイズが流れた。
次に、妙に明るい声が車内に響いた。
*
DJ・YASU「皆さんこんばんは。DJ・YASUでーす」
DJ・YASU「今週も始まりました『ヤッスのヤスヤス・レーディオ!』」
ボス「……」
ヤス「僕このラジオ。毎週録音してるんですよ」
DJ・YASU「今週も色々お手紙頂いているので早速読んでいきましょう!」
DJ・YASU「まずはラジオネーム、"みかちゃん"さんからです」
DJ・YASU「最近無言電話ばかりかかってきて困ってるんですけどーどうしたらいいですかー」
DJ・YASU「あーそれはうっとうしいですね。警察に相談してもいいかもしれませんね」
ヤス「……あ」
ボス「……」
DJ・YASU「続いてはラジオネーム、"しゃーなしで見ているヤス"さんからです」
DJ・YASU「犯人、どうせヤスですよね?」
DJ・YASU「うーん、僕はこれはわからないけどヤスって人じゃないかな?」
ヤス「……」
DJ・YASU「どんどんいきましょう。ラジオネーム、"屁は卑怯なヤス"さんからです」
DJ・YASU「なんだよーあのおならオチ。ひどくねーか!」
DJ・YASU「何の事かはわからないんですが、屁で逃げるってのは確かに卑怯ですよね!ヘヘっw」
DJ・YASU「続いては。ラジオネーム、"ヤスード改オチ"さんからです」
DJ・YASU「ヤスード改が最初は関西弁だったと思うんですけどー」
DJ・YASU「あーこれはー作者とAIがどうやら設定を忘れてたらしくてー、ヤス多すぎて混乱してしまったようでー、ってのは冗談で、アップデートで関西弁じゃなくなったと辻褄をあわせてるらしいですよ。想像ですが」
DJ・YASU「本日最後、ラジオネーム、"私が本当のヤス"さんからです」
DJ・YASU「園田まで行くだけで一話使うんですか?とお便り!」
DJ・YASU「そろそろ犯人が誰かくらい、教えてもいいんじゃないでしょうかね。まぁタイトルで教えてるみたいですが、何の事かはわかりませんが、園田まででもう1話あるとか、ないとか。詳しくはわかりませんが」
ヤス「ボス、車でどのくらいかかるんですか?」
ボス「30分くらいかかるかな」
DJ・YASU「それでは1曲参りましょう」
DJ・YASU「姫路市・安田からのリクエスト"ヤン・スイホー"さんから」
DJ・YASU「おお、有名な曲ですね。確か、某家庭用ゲーム機の2コンのマイクで録音したとか」
ヤス「音質、悪そうですね」
ボス「そこじゃない」
DJ・YASU「安々亭オールスターズで『ヤスい恋ほどよく燃える』!」
♪ ヤスい恋ほど よく燃える (わわわわー)
♪ ヤスい言葉で また揺れる (わわわわー)
♪ ヤスらぎなんて いらないわ (わわわわー)
♪ ヤスの名前で 夜が明ける~
♪ ヤスく見えても 罪な人 (つーみー)
♪ ヤスい笑顔で 逃げた人 (にげちゃだめー)
♪ ヤスを信じた 私だーけ (私だーけ)
♪ ヤスの涙は 安くない(わわわわー)
*
ボスは、無言でラジオを切った。
ヤス「最後まで聞きましょうよ」
ボス「事件に戻る」
ヤス「今のも事件の一部かもしれませんよ」
ボス「ならない」
ヤス「最近、そればっかりですね」
ボス「おまえがそればかり言うからだ」
その時、ボスの携帯が鳴った。
ボスは助手席で画面を確認し、通話に出た。
ボス「鈴木です」
ヤスは黙った。
ラジオとは違う空気が、車内に入ってきた。
ボス「……はい」
ボス「佐々木キミヤスの死亡推定時刻ですか」
ボス「分かりました」
ボスの声が、少しだけ低くなった。
ボス「小宮の所在は」
ボス「……防犯カメラ」
ボス「会計記録も」
ボス「目撃者も一致しているんですね」
ヤスは、ボスの横顔を見た。
ボス「分かりました。資料をこちらにも回してください」
通話が切れた。
車内には、雨の音だけが残った。
ヤス「何か分かったんですか」
ボスは、すぐには答えなかった。
ヤス「ボス」
ボス「佐々木キミヤスが殺された時刻に、小宮にはアリバイがあった」
ヤス「アリバイ」
ボス「ああ」
ヤス「じゃあ、小宮さんは」
ボス「佐々木キミヤスを殺せない」
ヤスは、言葉を失った。
小宮末広は、犯人として処理された。
遺書があり、自殺したことになっていた。
だが、小宮は佐々木キミヤスを殺せない。
そして、小宮自身も殺されていた。
ヤス「小宮さんは、犯人じゃなかったんですね」
ボス「そうなる」
ヤス「じゃあ、誰かが小宮さんを犯人にした」
ボスは答えなかった。
車は園田方面へ進んでいた。
ラジオはもう鳴っていない。
さっきまでのふざけた声が、遠くに消えていく。
ヤス「ボス」
ボス「何だ」
ヤス「園田に着いたら、アヤスさんに聞くんですね」
ボス「ああ」
ヤス「かなり怒られそうですね」
ボス「仕事だ」
ヤスはフロントガラスの向こうを見た。
ヤス「競馬場で怒られるの、嫌ですね」
ボス「まだ競馬場とは言っていない」
ヤス「園田ですから」
ボス「捜査だ」
ヤス「はい」
ヤス「そうだ、ラジオ聞かないと」
再びヤスはラジオをつけた。
*
DJ・YASU「おっと、ここで緊急のお便りです」
DJ・YASU「ラジオネーム、“俺が防犯カメラのヤス”さんから」
DJ・YASU「防犯カメラって誰かが映ってますよね?」
DJ・YASU「ここははっきりお答えしましょう!多くのヤスさんが映ってたらしいです」
DJ・YASU「それではまた来週!バイバイのバーイ!」
♪ ヤスい恋ほど よく燃える (あつあつー)
♪ ヤスい嘘ほど 胸にくる (いたたたー)
♪ ヤスらぐ前に 火がついて (わわわわー)
♪ ヤスの街角 燃えて~~い~~る
ボス「多分、誰かから怒られるぞ!」
ヤス「はい。存じております」
ボス「バイバイのバーイ!って知ってる人、おっさんしかおらんぞ」
ヤス「はい。存じております。ぐぐってください。」
小宮末広は、犯人ではない。
その事実だけが、ラジオの曲とともに車内に残っていた。
次回、第二章 EP04 番外編「苦労する課長」。
ラジオが鳴る裏側で、課長の給料は静かに燃えていました。




